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長野地方裁判所 昭和27年(行)4号 判決

原告 福島光雄 外四名

補助参加人 宮沢源一 外四〇三名

被告 長野県知事

主文

原告等の請求はこれを棄却する。

訴訟費用中参加に因つて生じた部分は参加人等の負担とし、その余の部分は原告等の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

被告が訴外昭和電工株式会社に対してなした

一、別紙一記載の昭和二十七年四月二十二日附長野県指令二六河第五九三・第五九四号による犀川支高瀬川支鹿島川支小冷沢大冷沢大川沢及び大ゴ沢の発電水利使用並びに高瀬川支農具川の水の使用及び工作物設置許可処分

二、別紙二記載の昭和二十七年十月八日附長野県指令二七河第五二八号による犀川支高瀬川支鹿島川支小冷沢大冷沢大川沢及び大ゴ沢の発電水利使用並びに高瀬川支農具川の水の使用計画変更許可処分及び同工事実施(魚道を除く)の認可処分

三、別紙三記載の昭和二十九年五月二十日附長野県指令二九河第六八二号による犀川支高瀬川支鹿島川支小冷沢大冷沢大川沢及び大ゴ沢の発電水利使用並びに高瀬川支農具川の水の使用計画変更許可処分及び同工事実施認可処分

はいずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

第二、答弁の趣旨

主文第一項同旨並びに訴訟費用は原告等の負担とする。

第三、当事者間に争がない事実(その一)

(一)  本件各河川の位置

長野県大町市大字平地籍に聳立する丸山、爺子岳、鹿島槍ケ岳、五竜岳、大遠見山、小遠見山、天狗岳を結ぶ地域を概ね流域として小冷沢、大冷沢、大川沢及び大ゴ沢の四溪流(以下四溪流という)が流れ出すが、右四溪流中大冷沢は同大字内でその支川たる小冷沢を併せ、大川沢は鹿島川の本流であつて河川法上鹿島川を構成するのであるが同大字内でその支川たる大ゴ沢を併せ、やや下流で大冷沢を併せ、鹿島川として流下して同大字内で高瀬川の支川として同川に流入し、高瀬川は流下して同市大字社地籍でその支川たる農具川を併せ、さらに下つて犀川の支川として同川に流入する。

なお右農具川は大町市大字平にある青木湖から発し中綱湖、木崎湖を経て前記高瀬川に流入する。

(二)  右河川に対する河川法の準用

右各河川は公水として古くから沿岸公衆の潅漑、飲用、その他の雑用に使用されてきたが、

被告は河川法第五条河川法準用令第一条により大正六年四月一日から高瀬川の鹿島川合流点以下犀川合流点迄の区間を、大正十一年五月一日から鹿島川全部(大川沢の源流から高瀬川合流点まで)を、大正十二年五月一日から農具川全部(青木湖、中綱湖、木崎湖全面は河川法上農具川の一部であるからこれらを含む。)を、昭和二十八年九月七日から大ゴ沢、小冷沢、大冷沢を、それぞれ河川法を準用すべき河川と認定の上河川法を準用した。

第四、被告主張の訴外昭和電工株式会社(以下昭電と略称する。)の発電計画

(一)  計画樹立までの経緯(この事実は当事者間に争がない。)

訴外日本電気工業株式会社は大町市大字大町にアルミニウム製造工場を、同市大字常盤に常盤発電所を、長野県北安曇郡広津村大字梶本に広津発電所を所有し、前記鹿島川高瀬川合流点よりやゝ上流の大字平字大出地籍に位置する東京電力株式会社高瀬川第一発電所放水路の放水口附近において高瀬川の流水を取水しこれを導水路により常盤発電所に導きこゝで発電を行い、さらにこれを導水路により導きサイフオンを用いて高瀬川を横断させて大町市大字社地籍で農具川を横断させその流水の一部を取水してこれと併せ、もつて導水路を通じて広津発電所に導き(以下右高瀬川取水地点から広津発電所迄の導水路を広津発電所導水路という。)発電の用に供し、これを北安曇郡広津村大字梶本字ヤーゴ一八六九八番地から犀川本流に放水した。

このほか今次大戦前頃から右会社はアルミニウム製錬電力確保のため、四溪流の流水を取水してこれを新設導水路により引水して青木湖に落下させ、その落差により発電を行う計画を立案し、これに基き昭和十二年十月二十二日被告に対し鹿島川青木発電所発電水利使用許可申請をなしたが、戦争のためこれが許可を見るに至らなかつた。

なお右会社は昭和十四年六月一日訴外昭和肥料株式会社と合併して商号を昭和電工株式会社と改めた。

今次大戦終了後長野県は県全体の経済振興の見地から長野県総合開発計画を樹立し、県内開発地点十六ケ所の一として高瀬川上流流域を選定し、その地方の電源開発、新規開田と既存水田との必要潅漑水量の供給、客土、砂防、道路改修等の産業振興、観光、交通、文化の向上をはかる諸計画を含む高瀬川上流地方総合開発計画を立案中であつた。一方昭電においても昭和二十四年頃前記計画を再検討した結果、昭和二十四年六月二十三日被告に対し前記アルミニウム製造のため既設常盤、広津両発電所の渇水期電力増強の目的をもつて青木湖の利用水深一・九〇米を二〇・〇〇米に増加し同湖を貯水池として使用することを内容とする青木湖貯水利用発電水利使用許可申請と、前記の戦時中の申請による鹿島川青木発電所発電水利使用変更許可申請とをなした。そこで被告は青木湖のもつ公共の利益、鹿島川下流潅漑に及ぼす影響及び長野県の計画に係る前記総合開発計画との関係を考慮し、昭和二十六年八月六日昭電に対し鹿島川の流量、青木湖と木崎湖との集水量、青木湖の容量、湖面の早期回復、潅漑用水量、増加電力量、湖面低下の場合に対する施設等の調査検討を命じ、これに基き長野県及び昭電が協力して調査の結果、昭電は右総合開発計画の一環として発電計画を立案するに至つた。

(二)  計画の概要

四溪流の流水は下流の潅漑用水その他の需要に応じているのであるが相当の余剰水があり無効放流されていると認められるので、この余剰水を四溪流からそれぞれ流域変更して新設の導水路により青木湖に導入しその途中大町市大字平字青木二一〇〇七番地所在青木発電所において発電に使用する。青木湖へ導入された水は貯溜調節され温度を高められて青木湖から隧道、暗渠、開渠により中綱部落、木崎湖右岸、小熊山麓、二ツ屋部落、借馬部落、大原部落をへて前記高瀬川第一発電所放水路の高瀬川放水口に至る青木湖導水路により放流され、途中これと交叉する在来の鹿島川からの用水堰に必要な分水を行い、右放水口からサイフオンにより高瀬川を横断して既設の広津発電所導水路に導かれ常盤、広津両発電所で発電の用に供せられる。

青木湖水の調節は、湖面の所定水位を保持すること、木崎湖に青木湖導水路から分水してその湖面を従来どおり保持すること、青木湖導水路と交叉する在来の用水堰に青木湖導水路から青木湖の温水を分水してその下方の必要な潅漑用水、雑用水を充足させることを常に考慮して行われる。故に非潅漑期においては青木湖導水路から各用水堰への分水量量を減少させて発電用水量を増加させ、潅漑期においては青木湖の貯溜水量を放流して潅漑にあてることになり旱魃の被害を最小限度にとどめ得るのである。

なお広津発電所導水路中大町市大字常盤仏崎及び同市大字社閏田の二地点においてそれぞれ高瀬川右岸及び左岸地区農業等用水を分水していたが、本計画によつても右分水量は従前通り確保されるようにしてある。

(三)  鹿島川の流量

本計画樹立にあたつては水源の調査が絶対に必要である。まず降雨量についていうとなるべく長期の観測資料を用いなければならないので松本測候所平雨量観測所(以下青木観測所という。所在地は大正十四年一月一日設置以来昭和十九年六月十日迄は大町市大字平字中綱一二、七八四番地、同日以後現在迄は同市大字同字簗場二一、二四〇番地の一南側河川敷地内であつて、松本測候所の嘱託により降雨量、積雪、雷雨、風向、風力、地震、天候等を観測して報告している。)における昭和四年ないし昭和二十五年の毎日の降雨量測定の結果を調査したところ、昭和十四年の年間降雨量はこの二十二ケ年間の最小でありこの二十二ケ年平均降雨量の約六十五パーセントにすぎないことが判明した。

本計画は関係各河川の流水中関係地域の潅漑その他の用水に使用した余剰水を発電に使用することを目的とするものであるから、いかに降雨量の少い年であつてもまず潅漑その他の用水の必要量を優先的に確保することを要する。故に降雨量の最も少い昭和十四年の年間降雨量を基礎として必要な潅漑その他の用水を優先的に確保しその残余をもつて発電用水にあてるよう計画するのが適当である。

さて、昭和十四年を計画の基礎とする以上同年における四溪流の各取水地点における河川流量を確定しなければならない。そこで同年中毎日大町市大字平猫鼻地先において測定した鹿島川の流量(立方米毎秒)に〇・七を乗じて得たものを四溪流の各取水地点における流量の合計量と認めた。何となれば四溪流の各取水地点における流域面積(一定地域内の降雨湧水等が流下してすべて右取水地点を通過する場合この一定地域の面積を右取水地点の流域面積という。)の合計は猫鼻地点の流域面積の七割(これを両地点の流域比という。)であり、従つて流量の比率も七割とみられるからである。そして鹿島川猫鼻地点の昭和十四年の最大流量は五月十三日の一八・六四六立方米毎秒、最小流量は十二月二十六日の〇・九四六立方米毎秒であるから、これに前記流域比を乗じた結果同年における四溪流の各取水地点の最大流量は五月十三日の一三・〇五二立方米毎秒、最小流量は十二月二十六日の〇・六六二立方米毎秒であることが判明した。

(四)  鹿島川流域中青木湖導水路上方地区の必要水量

本計画においては従来鹿島川の流水をもつて潅漑及び飲用等の用に供していた大町市大字大町及び大字平の中鹿島川左岸及び右岸地区を青木湖導水路を境界として上方地区と下方地区とに区分し、鹿島川及び籠川(高瀬川の一支川であつて鹿島川よりも上流に位する。)の流水をもつて上方地区の必要水量を供給し、青木湖導水路の流水(前記の青木湖の貯溜水及び青木湖導水路上方地区の余剰水がその供給源である。)をもつて下方地区の必要水量を供給する。故に四溪流取水地点における取水量を定めるに当つては、まず青木湖導水路上方地区の必要水量を算定し、またこれの供給源である、(甲)籠川からの供給水量と、(乙)四溪流取水地点より青木湖導水路上方地区各潅漑用水路の鹿島川取水地点までの間において流域から鹿島川に流入する水量とを算定して、(甲)、(乙)の供給水量と合算するときは右上方地区の必要水量を満たすに足るだけの水量を四溪流取水地点の流量から控除した残量を四溪流から青木湖へ取水する流量とすればよいのである。

青木湖導水路上方に存在しかつ鹿島川の流水をもつて潅漑の用に供する水田の総面積は一九〇町六反三畝二十一歩でありその鹿島川からの取水地点における必要水量は当時潅漑期(毎年六月十一日から九月十日まで)一・五七八立方米毎秒、挿秧期(いわゆる代掻をする期間であつて毎年五月二十一日から六月十日まで)二・〇九八立方米毎秒、非潅漑期(毎年九月十一日から翌年五月二十日まで)〇・四一〇立方米毎秒である。

右必要水量を算出する方法は次の通りである。

まず常時潅漑期についていうとこの地区の減水深(水田に水を満たしたまゝその流入流出をとめて二十四時間放置すると水は地下滲透及び蒸発によつて減少するがその減少した水深をいう。)は五〇耗ないし五八耗(この数字は長野県総合開発局が各用水路の支配地について土質を考慮して用水路別かつ開田既田別に昭和二十六年八月中旬から九月下旬にかけて地元農民に委託して調査したところによる。以下他の地区の減水深についても同様である。)であり、同じ二十四時間中の潅漑期一日平均有効降雨量は二粍(これは松本測候所大町観測所の過去十四年間の最小降雨量につぐ降雨量であつた昭和十七年の潅漑期一日平均降雨量の八〇パーセントを有効と認めて算出した。)であるから、毎日この地区の水田の全面積に対し深さ四八耗ないし五六耗に及ぶ水量を供給すれば水田は常に一定の水位を保つことになるのでこれによりこの地区の各水田の一日の必要水量の合計量が算出される。しかし鹿島川からこの地区内の各水田まで水が流入する間に水路から地下滲透又は蒸発により失われる水量(これを導水損失という)はこの地区の土質の関係もあつて流量の約二〇パーセントないし四〇パーセント(これを導水損失率という。)に及ぶ。故に右水田の必要水量の合計量を〇・六ないし〇・八で除して得た水量が青木湖導水路上方地区各潅漑用水路の鹿島川における取水地点からこの地区の一日の潅漑必要水量として取水すべき水量であつて(これを以下常時潅漑期の青木湖導水路上方地区必要水量という。なお挿秧期、非潅漑期についてもそれぞれ同様に表示する。)これを毎秒あたりに換算すると一・五七八立方米となる。

右算出方法を公式化すれば

一町歩あたりの毎秒必要水量=(一日の減水深-一日の有効降雨量)×10000/(1―導水損失率)×86400(水量の単位は立方米。減水深及び有効降雨量の単位は米。10000とは一町歩を一万平方米として計算したためのもの。86400は一日の秒数)となる。

非潅漑期から挿秧期にはいるとまず乾田状態の水田を湛水させかつ耕土を水で飽和させなければならない。このためにはこの地区の土質等にかんがみ平均して深さ一五〇耗の水(これを代掻用水量という)を一時に供給しなければならない。そしてこの地区の挿秧期は五月二十一日から六月十日までの間で代掻のための所要日数は五日ないし七日(これを代掻日数といゝ各水田の耕作者の有する労働力によつて耕作者毎に異る。)であるから、この地区の全水田面積の五分の一ないし七分の一に対し毎日深さ一五〇耗に及ぶ水を供給し、かつすでに一五〇耗の水の供給を受けて水田が満水した地区に対しては翌日から一日の減水深である五〇耗ないし五八耗から一日の有効降雨量である二耗を減じた深さの水(常時潅漑期必要量)を毎日供給しなければならない。これらの必要水量の合計量を前述の導水損失を考慮して〇・六ないし〇・八で除して得た水量を毎秒あたり換算すると二・〇九八立方米となる。

これを公式化すれば

一町歩当りの毎秒必要水量=〔代掻用水量×(1/5~1/7)+(一日の減水深―有効降雨量)×代掻日数―1/代掻日数〕×10000/(1―導水損失率)×86400

(代掻用水量は単位米(0.15米)。便宜上挿秧期中最も必要水量の多い最終の日の毎秒当りの必要水量を算出した。)となる。

挿秧期がすめば前述の常時潅漑期必要水量を供給すれば足りる。

以上の常時潅漑期及び挿秧期の水田必要水量は充分な余裕を見て算定したものであり、畑地の必要水量、飲用、洗濯、防火等の雑用水は水田の必要水量に比すればきわめて少いからこれらの用水も前記の水量で充分賄えるのである。

非潅漑期には安全を期して常時潅漑の二〇%ないし三〇%をもつて必要水量とした。これは前述の通り〇・四一〇立方米であつてこれにより農業用水以外の必要量を満たすに足りるのである。

本計画においては前記鹿島川取水地点において青木湖導水路上方地区必要水量以上の水量を取水することとしこのうちから右地区で費消した残余の水量(これを鹿島川残水という。)を青木湖導水路に流入させるものとした。

(五)  四溪流における取水量

前述したところによつて判明するとおり鹿島川の猫鼻地点の流量は青木湖導水路上方地区必要水量よりも大であつて多量の水が何ら利用されないで流下していることが判る。故に本計画にあつてはかゝる水を有効に利用する目的をもつて青木湖導水路上方地区必要水量を侵害しない範囲内で且つ六立方米毎秒以内で四溪流取水地点から青木湖に取水するのである。従つてかりに昭和十四年以上の渇水という事態が生じ、四溪流で多少なりとも青木湖に取水すれば鹿島川から青木湖導水路上方地区への各潅漑用水路の取水口附近の鹿島川の流量が青木湖導水路上方地区の必要水量にも満たないことになる場合は、四溪流で取水を行わず従つて青木発電所において発電を行わない。又青木湖導水路上方地区への各潅漑用水路取水口附近の鹿島川の流量が右必要水量を満たして残余がないように四溪流取水地点で取水するときは、六立方米毎秒以上の取水が可能となる場合であつても四溪流の取水量を最大六立方米毎秒にとどめ、従つて右超過流量は無効放流されることになる。

この最大取水量を四溪流別に見ると次の通りである。

小冷沢 〇・八立方米毎秒取水地点大町市大字平字鹿島入国有林第十四班

大冷沢 一・四立方米毎秒同第十一班

大川沢 三・一立方米毎秒同第七班

大ゴ沢 〇・七立方米毎秒同第四班

合計  六・〇立方米毎秒

四溪流の最大取水量を六・〇立方米毎秒と定めた理由は次の通りである。まず青木発電所における最大発電使用水量はなるべく大きいことが水力資源利用の見地からは望ましいが、一般には平水量即ち年間一八五日間はこれより少くなることのない水量を最大発電使用水量としてよいとされているから、本計画においても下流の必要水量、取水地点の流況その他の経済的見地から最大発電使用水量を三立方米毎秒とし、青木湖の貯溜水を発電用等に放流して湖面を二〇米低下させた場合の湖面の回復なども考慮して四溪流の最大取水量を六・〇立方米毎秒と決定したのである。故に取水量中発電使用水量をこえる部分は青木発電所において発電に使用することなく余水路をへて青木湖に放流される。

なお常時発電使用水量は一年間のうち三五五日間にこれより少なくなることのない流量即ち渇水量をとらなければ、発電所は常に水不足に悩まされ充分に発電施設を利用できなくなるので、渇水量をとるべく、本計画においては取水地点の流況、下流の必要水量及び発電計画の面から各年の渇水量の平均を考慮して常時発電使用水量を一立方米毎秒と定めた。

(六)  青木湖の利用

前述のようにして四溪流から導かれた水の一部は青木発電所で発電の用に供せられ、残部は発電の用に供せられずして余水路をへて青木湖に流入する。青木湖の満水時の水位(これを満水位という。)は標高八二一・〇六米であり、従来は満水位以下一・九〇米(標高八一九・一六米)迄湖面を低下させて湖水を利用していたのを改め、従前の満水位は変更せず満水位以下二〇米(標高八〇一・〇六米)迄湖面を低下させて湖水を利用することとした。これよりもさらに湖面を低下させるときは湖水の調節計画が成立せず湖面の復帰も危ぶまれひいては下流に影響するので湖面低下をこの程度にとどめたのである。青木湖の貯水中右措置によつて利用できる水量は二九七三万一六〇〇立方米であり、青木湖に対する水の年間流入量(四溪流からの前記取水量と青木湖の流域面積からの流入量との合計量)は約九三〇〇万立方米であるから、これらの水を青木湖取水口から青木湖導水路に最大五・五立方米毎秒、最少〇・四三八立方米毎秒放流し(これを青木湖放水という)、導水路の途中に設けた各分水口から木崎湖及び青木湖導水路下方地区の各必要水量を分水し、残余を広津発電所導水路に導き常盤広津両発電所の発電力の増強をはかるのである。なお潅漑期には湖水上部の温水を供給しうるよう右青木湖取水口の取水塔上部にも取水口をつけることにする。

毎月の青木湖放水量は別紙五青木湖放水量欄記載の通りである。これを定めるに当つては次のことを考慮した。

(A)  毎年四月一日から七月三十一日までの第一貯溜期間

(イ) 毎年四月一日の水位を満水位以下二〇米とすること。

(ロ) 青木湖導水路下方地区の毎日の必要水量を確保すること。

(ハ) 木崎湖を四月末日に満水させること。これは木崎湖がこの計画により青木湖から流入をとめられそのため下流の農具川掛りの水田の必要水量を供給することができなくなるから挿秧期にはいる前に木崎湖を満水させておく必要があるからである。

(ニ) さらに五月二十一日以降の挿秧期常時潅漑期に湖水の上部の温水を供給するため五月二十日には湖面を満水位下六・五米まで上昇させること。即ち青木湖から青木湖導水路への取水口は上と下との二部分に分れ上部の取水口は前記の通り表面の温水を取水するためのものであるから水位がこの取水口より高くならなければ温水の取水は不可能である。故にこのように湖面を上昇させなければならない。

(ホ) 六月末日には風致上の必要から青木湖の水位を満水位下二米とすること。

以上の事項を考慮してこの期間の最大放水量を五月下旬(挿秧期)の五・五立方米毎秒、最小放水量を五月上中旬(非潅漑期)の〇・四三八立方米毎秒とした。

(B)  毎年八月一日から十一月三十日までの夏期渇水補給及びその水位回復期間

八月一日から九月上旬迄は渇水期であるから潅漑用水を多量に放流すべく放水量は八月中は四・三九五立方米毎秒、九月上旬は四・五五七立方米毎秒と定めた。九月中、下旬、十月は必要水量のみを放流して湖面を上昇せしむべく、放水量は九月中、下旬二・四九四立方米毎秒、十月は〇・六三五立方米毎秒と定めた。十一月は電力行政面では渇水期であるから発電用水をも含め放流し同月末日に湖面が最高水位に達すべく放水量を一・三八八立方米毎秒と定めた。

(C)  十二月一日から翌年三月三十一日迄の冬期渇水補給期間

この期間内に全貯溜水量を順次放流する。毎日の放水量は下流の各雑用水を確保する他、青木、常盤、広津各発電所の総合出力ができるだけこの期間を通して等しくなるように定める。従つて放水量は最大五・四四六立方米毎秒、最少二・七六三立方米毎秒と定められた。

(七)  青木湖導水路から農具川流域に分水すべき水量

青木湖導水路から農具川流域に分水しついで鹿島川流域の青木湖導水路下方地区に分水する。前者への分水量は次のようにして定めた。

(A)  青木湖木崎湖間の農具川流域の潅漑その他の必要水量は本計画により青木湖からの自然流出がなくなるにもかゝわらず、両湖間の流域の雨水湧水等で間に合うが、万一不足する場合は青木湖からポンプ揚水して給水する。故に青木湖導水路からこの地区に分水する必要を見ない。

(B)  木崎湖は従来利用可能の水深が三米あり青木湖からの自然流入によつて同湖下流の農具川掛りの地区の必要水量を供給していたが、本計画によりこれがなくなり湖面が低下したまゝ回復不可能になるので、青木湖導水路からの分水によつて水位を従前通り保持し木崎湖周辺及びその下流の農具川の水利に支障を与えないように毎月の分水量を定めた。その水量は別紙五木崎湖分水量欄記載の通りである。

(八)  青木湖導水路下方地区に分水すべき量

青木湖導水路はその終端たる高瀬川第一発電所放水路に至るまでの間に十三ケ所の既設用水堰と交叉しその各交叉点において青木湖導水路下方地区必要水量を分水するが、この分水に際し青木湖導水路上方地区から既設用水堰を経て青木湖導水路に流入する冷水(後述の鹿島川残水及び籠川水量)を青木湖導水路の温水とまぜて水温を高めてこれを青木湖導水路下方地区に放流しうるようにした。十三の既設用水堰とは上方から、森、木崎、寺、北荒沢、中荒沢、南荒沢、大町新、飯綱宮、御所川、野口東、野口西、久保、大蔵宮の各堰である。従前青木湖導水路下方地区の住民及び農地はこの十三の堰によつてその必要水量の供給を受けていたのである。

青木湖導水路完成後青木湖導水路下方地区に対する供給用水は次の三部より成る。

(A)  青木湖から青木湖導水路に放流した水(これを前記のとおり青木湖放水という)

(B)  鹿島川から青木湖導水路上方地区を経て青木湖導水路に流入した水(これを鹿島川残水という)

(C)  籠川から鹿島川をサイフオンで横断し大町新堰を経由し青木湖導水路上方地区を通過して青木湖導水路に流入した水(これを籠川水量といい、挿秧期及び常時潅漑期にのみ供給される。)

これらの各月毎の供給量(毎秒当り)は別紙五取水量欄に記載した通りである。

なお籠川から取水する流量は、前記青木観測所における昭和十四年の雨量及び前記猫鼻地点における鹿島川流量を基礎として鹿島川猫鼻地点と籠川大町新堰取水地点との流域比(一対〇・六六)を乗じて算出した籠川の右取水地点における流量よりも少くしてあるから、いかなるときでも右取水量を確保できる。そしてその約半分を青木湖導水路上方地区で使用し残余を青木湖導水路に流入させるのである。

次に青木湖導水路下方地区の必要水量を算定するに当つては次の方式を用いた、即ち前記各堰によつて必要水量をみたしている水田面積五一四町六反四畝を既田(昭和二十七年四月二十二日附の本件行政処分以前に開墾された水田、即ち既得水利権のある水田)と開田(右行政処分以後に開墾する予定地、即ち行政処分当時は現実に水を必要としない。)とに区分し、既田の減水深を四三粍、開田の減水深を五八粍、有効降雨量を二粍導水損失率を二〇パーセントとして前述の公式に従い常時潅漑期必要水量を算定し、代掻期間を五日間ないし十日間、代掻用水量を一五〇粍、平均減水深を四五粍ないし五〇粍、導水損失率を二〇パーセントとして挿秧期必要水量を算定し、常時潅漑期必要水量の一〇パーセントないし三〇パーセントをもつて非潅漑期必要水量とした。これらはいずれも各堰ごとに測定したもので余裕をみてあるので、畑地の用水及び飲用防火等の雑用水も充分に供給しうるのである。

この結果十三の堰の合計分水量は常時潅漑期三・二二一立方米毎秒、挿秧期四・五六一立方米毎秒、非潅漑期〇・七四一立方米毎秒となるが、これらの分水量は青木湖導水路から発電用水よりも優先して分水するものとする。なお毎月の右合計分水量は別紙五用水路分水量欄記載の通りであり各堰ごとの常時潅漑期挿秧期、非潅漑期別の分水量ならびに各堰の支配面積既田及び開田別の面積は別紙四記載の通りである。

(九)  高瀬川右岸用水と発電用水との関係

以上のようにして分水した残余の水は青木湖導水路から既設の広津発電所導水路に流入するのである。従来広津発電所導水路は高瀬川から取水し、その一部を大町市大字常盤地籍仏崎分水口(常盤発電所上流)から分水し、残余を常盤発電所で発電に使用した後一部をさらに同発電所より下流の分水口から分水しこれらの分水は高瀬川右岸の潅漑等の用に供せられていた。被告が昭和十三年三月十五日長野県に対しその県営高瀬川沿岸農業水利事業に関して発した長野県命令によれば、右導水路から高瀬川右岸地区への分水量は常時潅漑期一〇・五二立方米毎秒、挿秧期一六・七四立方米毎秒、非潅漑期二〇・〇立方米毎秒と定められてあるが、右は本計画によつては何らの変更も加えられない。

(十)  高瀬川左岸用水と発電用水との関係

前項のとおり高瀬川右岸地区で分水した残余の流水はサイフオンで高瀬川を横断し、農具川取水口から農具川の流水を取水して流下し、大町市大字社字丹生子九五一番地所在閏田分水口において高瀬川左岸用水を分水し残余を広津発電所に導いて同所において発電用に使用される。前記長野県命令によれば閏田分水口における分水量は常時潅漑期三・四八〇立方米毎秒、挿秧期五・一二〇立方米毎秒、非潅漑期一・〇〇〇立方米毎秒である。この分水量は本計画によつては何らの変更をも受けない。

第五、当事者間に争のない事実(その二)

(一)  本件行政処分の申請と許可(これを以下第一次行政処分という)

昭電は昭和二十六年八月二十八日(但これは被告の主張するところであつて原告等は昭和二十四年六月二十三日と主張する。)被告に対し右発電計画に基く四溪流の水を流域変更して発電をなしたるのち青木湖に放流し同会社既設常盤、広津両発電所の渇水期電力増強の目的をもつて青木湖の利用水深一・九〇米を二〇・〇〇米に増加し同湖を貯水池として使用することを内容とする犀川支高瀬川支鹿島川支小冷沢大冷沢大川沢及び大ゴ沢の発電水利使用(青木発電所)並びに高瀬川支農具川(青木湖)の水の使用及び工作物設置許可申請をなしたところ、被告は昭和二十七年四月二十二日長野県指令二六河五九三・五九四号をもつて昭電の前記申請をいずれも許可し右許可書はそのころ昭電に到達した。右許可処分の内容は別紙一の通りである。これにより明らかなように右許可処分は前記の計画をそのまゝ採用したものであつてその附属命令書第二、第八、第九条において既得の農業水利権との調整をはかつている。そして右許可処分においては青木湖取水口の水門及び青木湖導水路より農業用水等を分水することに伴う水門の運営管理に関しては関係当事者の協議に委ねられ被告がこれに対して承認を与うべきものとされている。

(二)  本件計画変更許可申請とその許可処分及び工事実施認可処分(これを以下第二次行政処分という。)

昭電は第一次行政処分の後水路実測の結果発電所の建設価値を考慮し河水の利用度を高めるため、前記計画の一部を変更し青木発電所の最大発電使用水量三立方米毎秒を四立方米毎秒に改め有効落差を高めて理論水力発電力等を増強するものとしたが、原計画のその他の部分ことに四溪流からの最大水量六立方米毎秒については何らの変更を加えなかつた。即ち従来最大六立方米毎秒の取水量のうち最大三立米毎秒を発電に使用して青木湖に放流し、残余の三立方米毎秒を発電に使用することなく余水路をへて青木湖に導くこととしていたものを、前者のため四立方米毎秒後者のため二立方米毎秒を使用することに改めたものにすぎない。

昭電は昭和二十七年五月十五日被告に対し右に基き前記の使用計画変更許可及び右変更後の使用計画にもとずく工事実施認可申請をなしたところ、被告は同年十月八日右許可申請を全部許可し工事実施については魚道を除き、認可しこれに伴い第一次行政処分の附属命令書を別紙二の附属命令書の通り更改したが、これらの行政処分はその頃昭電に到達した。

(三)  計画変更許可申請及びこれに基く工事実施認可処分(これを以下第三次行政処分という。)(末段記載の事実は被告の主張であつて、原告等は認めない。)

昭電は第二次行政処分にもとずき工事を進めたが、青木湖導水路の通過地点を原計画よりもやゝ上方に移動しこれに伴う右導水路上方地区及び下方地区の農地面積の異動と青木湖導水路より分水すべき既設用水路の増加(即ち北荒沢堰と中荒沢堰との間に西原堰が加わり、中荒沢堰と南荒沢堰との間に法蔵寺堰が加わり、分水を受ける既設用水路は合計十五ケ所となつた。)とにより、青木湖放水量、鹿島川残水量、籠川水量、青木湖導水路より十五ケ所の既設用水路に対する合計分水量をそれぞれ訂正する必要があると認め、昭和二十九年四月二十六日その旨の計画変更許可申請及びその工事実施認可申請をなしたところ、被告は同年五月二十日長野県指令二九河六八二号をもつてこれを許可又は認可しこれに伴い附属命令書を別紙三の附属命令書の通り更改したが、これらの行政処分はその頃昭電に到達した。

これによつて前述の計画中青木湖導水路上方地区の総水田面積は一九〇町六反三畝二一歩から一五六町一反三畝五歩に、常時潅漑期必要水量は一・五七八立方米毎秒から一・二六六立方米毎秒に、挿秧期必要水量は、二・〇九八立方米毎秒から一・七〇四立方米毎秒に、非潅漑期必要水量は〇・四一〇立方米毎秒から〇・三四八立方米毎秒に改められた。而して青木湖導水路下方地区の総水田面積、これが既田開田別の面積、各堰ごとの常時潅漑期、挿秧期、非潅漑期各必要水量は別紙八の通りに改められた。即ち各堰の必要水量の合計は常時潅漑期三・四七三立方米毎秒、挿秧期四・七六立方米毎秒、非潅漑期〇・七七六立方米毎秒である。又毎月の青木湖放水量、鹿島川残水取水量、籠川水量、木崎湖分水量、十五ケ所の既設用水路に対する合計分水量は別紙九の通り改められたのである。

第六、被告主張の各堰ごとの分水量及び水門水路の構造の決定

昭電の前記計画においては青木湖導水路下方地区に対する各既設用水路交叉点からの分水量が定められていたが、本件行政処分附属命令書第十条によれば右用水路との交叉点の水門の運営管理については昭電は関係当事者と協議の上別途に被告の承認を受けなければならないとあり、右の関係当事者とは本件各河川の用水関係代表者及び大町市(旧平村、社村を含む)の趣旨であるから、昭和二十八年六月十日から昭和二十九年一月二十九日まで数回にわたり各堰ごとの分水量及び水門の規模構造につき右関係当事者と協議した。当時は第一次行政処分で許可された前記計画中青木湖導水路の通過地点をさらに上方に移動しこれに伴い右導水路下方地区の水田面積、導水路から分水を受ける用水路の数及び導水路から各用水路ごとの分水量を別紙八及び同九記載のように変更することが考慮されており、近く昭電からそのような趣旨の計画変更許可申請がなされ、これがそのまゝ許可される見通しがあつたので、右協議はもつぱら別紙八記載のような各堰ごとの分水量及びこれに伴う水門の規模構造の可否について行われた。その結果、分水量を別紙八の通りとすることに異議はなく、水門の規模構造については昭電の計画案よりも大きくして余力を残すことに決定した。右の各堰ごとの協議の成立した日は次の通りである。

昭和二十八年六月十日   森

同年十月四日       木崎、寺、北荒沢、中荒沢、法蔵寺

同年十二月二十四日    南荒沢、大町新、飯綱宮、御所川、大蔵宮

昭和二十九年一月二十九日 野口東、野口西、久保(花見)

昭和三十年四月二十日   西原

よつて昭電では大町町長(市制施行前)平村村長(同前)の右決定による設計に基く工事施工の承諾を得て昭和二十九年二月二十五日(昭和二十九年四月二十六日法蔵寺、南荒沢、大町新、飯綱宮、御所川、野口東、野口西、久保の各堰についてはさらに構造を大きく設計変更の申請をした。)被告に工事一部変更認可申請をなし同年四月九日(前記変更申請に対しては同年五月二十日)その認可を得た。

第七、被告主張の高瀬川上流水利運営委員会

右附属命令書第十条の定めるところにより昭和二十九年四月二十六日高瀬川上流水利運営委員会が設立され昭和三十年七月二十二日被告の承認を得た。この委員会は青木湖よりの取水口の水門及び常盤発電所高瀬川取入口までの発電用水と地元の潅漑その他の用水との分水に伴う水門の開閉操作並びに導水路上部の水利調整を合理的に運営管理することを目的とし、大町市の大字大町、同平、同常盤及び昭電から選出された各八名計三十二名の委員をもつて構成されている。そして水利調節等についての日常必要事項処理のため常任委員会が設置され必要に応じて小委員会が構成される。

委員会は毎年三月定例会を開きその他必要に応じて臨時会を開く。招集は委員長がするが委員は招集を請求できる、招集は書面でなす。

委員会は各地区委員の半数以上が出席すれば出席委員の意見で開かれることがある。委員会の決議はこれまですべて出席委員会の全員一致をもつてなされた。意見の分れた場合には何回でも継続会を開きその一致をまつのが例である。委員長に事故あるときは副委員長が代理する。

なお書記が議事録を作成する。

委員会は現在迄に七回開かれ規約、その一部変更、役職員、予算、水利調整の基準、発電及び地元用水の合理化等が決定された。

導水路の各水門の流量の基準は委員会において決定せられるが、日々の流量の決定は委員会の委任に基いて委員長(不在のときは副委員長)が天候、地元の都合等を勘案して決定する。右決定にもとずき水門巡視員が各水門の調節をするものと定められている。

第八、被告主張の右各行政処分の法律的根拠

右各行政処分は河川法準用河川である高瀬川及び鹿島川(大川沢を含む)並びに農具川については河川法、大正十年長野県令第五十一号発電水利使用規則、大正十一年長野県令第六十六号河川取締規則により、昭和二十八年九月七日までは河川法準用河川でなかつた小冷沢大冷沢大ゴ沢に対する第一、二次行政処分は昭和二十三年長野県条例第二十号長野県土木取締条例により、その第三次行政処分は河川法及び前掲各規則によつて行われたものである。被告はこれらの法令により右各河川の管理権を有するから本件各行政処分が右各河川敷上に設置すべき工作物を対象とすることは勿論である。そして河川敷以外の場所に設置された工作物に対しても被告の河川管理権が及ぶか否かは問題であるが、本件各行政処分により引水された流水は結局発電等に使用され最終的に消費されることなくもとの河川に還元されるから、その間の導水路につき漏水を防止する等必要な取締を行うことは下流水利権者の保護その他河川管理上からも望ましいことなので、右河川敷地外の導水路等の工作物もまた被告の河川管理権の対象となるものというべく、従つて本件各行政処分の対象となつているのである。

第九、争点

(甲)  原告等の主張(違法事由)

(一)  原告等の水利権の性質等

後に詳述する通り、原告福島、同松坂、同工藤、同渋田見は四溪流、鹿島川及び籠川の流水につき水利権を有し、原告高山は高瀬川及び農具川その他の流水につき水利権を有するのであるが、原告等(原告福島光雄の先代安恵は後に述べる通り昭和二十九年六月二十八日死亡し、光雄において相続により安恵の権利を承継したものであるから、以下「原告等」という場合、それが昭和二十九年六月二十八日以前の事項に関するときは他の原告等と共に安恵を意味し、若し同日以後の事項に関するときは他の原告等と共に光雄を意味するものとする。)の水利権は法例第二条により法律と同一の効力を有するものとされている慣習法により成立した権利であつて、河川法及びその附属法令等のような法令、又は都道府県知事のなす水利使用許可処分の如き行政処分或は部落等の承認、もしくは契約によつて成立したものではない。この水利権はイザナミ・イザナギ二尊時代から木造家屋に住み農耕と漁撈をもつて生活を充実させ家族制度のもとに一致団結してきた日本民族独特の権利であつて、狩猟民族である諸外国にはその例をみないものである。この水利権は前述のように河川法にもとずくものではないから、行政庁は同法に基いて本件各河川を管理することができてもこの水利権に制限を加えたり、これを奪つたりすることはできない。そして従来河川法の適用又は準用のない河川に同法が新に適用又は準用されるに至つても、水利権は同法の適用又は準用を受けないものであるから、その性質に何らの影響を受けない。もし同法の適用又は準用により水利権に変更を及ぼすものとすれば、同法は水利権を侵害するものであつて憲法第二十九条に違反する無効の法律となるであろう。水利権は以上により明らかなように公法上の権利ではなく私法上の物権的性質を有する用益権であり、いわば地役の性質を有する。

この水利権の主体は個人であつて市町村等の公共団体、部落のような団体ではない。従つて共有又は総有的性質をもたず水利権に対する持分というようなものはない。この点で西洋の放牧権のように多数人に共同帰属する権利と異るのである。原告等を含め何人も出生移住等によりその部落の住民となることにより、世帯主たると世帯員たると、年齢、性別、耕作水田が居住部落又はその他の部落にあると否とを問わず、何人の許可その他特別の行為を要しないで当然、原始的に水利権を取得し、部落に居住する限り右水利権を保持し、他部落に転居したり死亡したりすればこれを失う。それ故水利権は譲渡できないものであるが潅漑用の水利権のみは水田を耕作する権利の譲渡又は相続による移転に伴つて移転しうるものである。

水利権の客体は河川の流量全部である。その一部の分量又は一部分(上層部下層部等)、殊に権利者の現在の現実の使用水量に局限されることはない。従つて被告の主張するような権利者の耕作反別、耕地の位置、種類等から計算した所謂必要水量のみが水利権の及ぶ範囲であつて、それ以外の河川流量を余剰水と称し水利権の及ばない範囲とするが如き見解は誤りである。勿論水利権者が水を使用する時期、用途(潅漑飲用防火等)引水の方法、取水口の位置については何らの制限はない。権利者は自己の権利としていかなる時期でも、いかなる方法によつても例えば既設の用水路以外に新水路を開設する等の方法により、任意の水量をときには全流量をも使用できるのである。何となれば河川の流量は天候気温等周囲の環境の変化により毎日変動があり、河川の流量全部をもつてしても到底通常の需要をみたさぬ場合があり、又将来開田等により需要が増加することもあり得るので、あらかじめ過去数年間の使用水量を根拠として将来の必要水量を算定しその範囲に水利権を局限することは不可能かつ不適当と考えられるからである。なお水利権は地表の流水のみならず地下の滲透水にも及ぶ。従つて取水口、水路を設けて引水するのも、井戸を堀つて水を利用するのもひとしく水利権の作用である。

かくて住民一人でも全流量を使用できるのであつて、本件行政処分によつて原告等の使用し得べき水量が一滴でも減少することがあれば、仮令本件行政処分によつて取水された水量が元の河川に還元されるものであつてもこれは水利権の侵害となるのである。そしてこの水利権者は一人でもその権利にもとずき本件行政処分取消訴訟を提起できるのである。

仮に水利権の客体について制限があるとしても水利権は不可分的に全流量に及びかつこの権利は部落に居住することによつて生じた物権であり全部落民に共通であるから、原告等は水利権者として憲法第十二条後段により水利権者全体の権利を擁護するために本訴に及んだ次第である。

なお亡福島安恵は原告福島光雄を除く他の原告等と共同して本訴を提起したところ昭和二十九年六月二十八日死亡したので、その所有しかつ占有耕作していた水田の所有権占有権、従つて右水田のための潅漑用水利権は原告福島光雄において相続により承継したので原告福島光雄は右潅漑用水利権の承継により本訴を承継したものである。

(二)  原告等の各水利権の内容

原告福島、同松坂、同工藤、同渋田見は大町市大字平野口部落民であり、肩書地に居住し附近に水田等の農地を所有し部落民としての資格で、四溪流鹿島川及び籠川の流水(籠川の流水の一部は大町新堰を経由して野口部落に至る)及びこれらの河川の地下滲透水を潅漑飲用防火雑用等に使用する権利を有する。右原告等四名は鹿島川の流水を同市大字平地籍から取水しているがこれら四名のため近代的な特別の取水口放水口はない。

原告高山は同県北安曇郡池田町大字会染の部落民肩書地に居住してその附近に農地を所有耕作し、高瀬川と農具川(いずれも広津発電所導水路を含む)の流水及び地下滲透水を潅漑、防火その他の用途に使用してきたもので右河川以外に依存すべき水源をもたない。なお同原告は飲料水を得るため井戸を使用している。従つて同原告はこれらの河川の上流である四溪流及び広津発電所導水路の全流量についても水利権を有するのである。そしてこれらの流水を使用するための取水口は大町市大字社字丹生子九五一番地先広津発電所導水路に存在する。

被告は原告等の耕作水田の位置、面積、取水口、減水深、有効降雨量につき具体的に主張しこれらの資料からしてその潅漑必要水量を算出している。原告等が被告主張のように耕作し潅漑飲用等に本件各河川の流水を使用していることは認めるが、原告等の耕作水田の位置、面積及び用水量はすべて否認する。のみならず原告等の水利権は必要水量に制限されることはなく河川の全流量に及ぶことはさきに述べた通りであるから、原告等の耕作水田の位置、面積、用水量によつて原告等の水利権に消長を来すものではなく、かような事項は本訴の判断に何等関係がないからその具体的な事実について主張しない。

(三)  水利権侵害による違法

本件行政処分は原告等の承諾なくして原告等の河川全流量に及ぶ水利権を一定数量に制限し残余を発電に使用することを許可することを内容とする以上、発電使用水量の如何を問わず原告等の右水利権を侵害するものである。具体的にいうと、原告福島、同松坂、同工藤、同渋田見が大町市大字平野口部落民として四溪流と鹿島川とに対して有していた水利権は本件行政処分による右河川流水の青木湖流入に伴い侵害を受け、なお籠川に対して有していた水利権は右行政処分による四溪流取水口下流鹿島川の流量の減少に伴う籠川から野口部落に至る滲透水の減少によつて侵害され、原告高山が四溪流に対して有していた水利権(鹿島川高瀬川を通じて四溪流の流水を利用)もまた本件行政処分により四溪流の流水が青木湖、青木湖導水路、広津発電所導水路を経て犀川に放流されたことによつて原告高山が右流水を使用できなくなつたことによつて侵害されたのである。

もつとも被告は本件行政処分附属命令書、第二条但書に「昭電は潅漑用飲用その他の用水魚族の棲息遡上に必要な水量はこれを放流しなければならない。」と命じてあるから原告等の水利権は侵害されないと主張するけれども、被告が昭電に対し一滴でも従来より余分に発電用水の使用を許した以上かゝる但書があつても本件行政処分が適法となるものではなく、又原告等はこの但書に基き昭電に対し作為又は不作為を求める権利はないから被告の主張は失当である。

なお被告の主張中本件行政処分により原告等が温水の供給を受け旱害を免れ得るなど農業経営上多大の利便を得るに至るとの事実は否認する。

なお高瀬川上流水利運営委員会は原告等その他水利権者に何ら相談せずに勝手に設立され各用水堰への分水の運営管理をなしもつて原告等の権利を侵害しているものでありかゝる機関の設置は被告の職権濫用行為であつて、無効である。

(四)  和解契約に違反する違法

原告高山は他の水利権者十四名(本件の他の原告等を含まない。)とともに被告を相手方とし、被告が昭和十二年七月二十六日東信電気株式会社及び日本電気工業株式会社に対して広津発電所建設のために与えた高瀬川、農具川の河水使用許可、及び昭和十三年三月二十五日与えた河水使用計画の変更許可の取消訴訟を昭和十四年十一月七日頃行政裁判所に提起し、その後多数の附近水利権者の訴訟参加を得て訴訟を追行したが迂余曲折の末、右原告十五名ならびに訴訟参加者全員は弁護士田多井四郎治を代理人として、昭和二十四年一月十四日被告との間に、被告は高瀬川沿岸農村住民が高瀬川農具川流水を従来慣行により潅漑飲用防火その他の用水に使用し来つた優先権を有すること及び昭電(日本電気工業株式会社が商号を改めたもの)に対してはその余剰水を発電に使用することを許可したことを認め、将来においても右流水使用については相互協議の上終始友情をもつて善処する旨の、裁判外の和解契約を締結して、当時右訴訟の原告等は訴を取下げたのである。右の契約は右行政訴訟の当事者のみならずひろく高瀬川沿岸住民全部に効力が及ぶのであつて、被告はこれらの者の慣習法上の水利権を承認したものである。

しかるに被告は本件行政処分において原告等の水利権を侵害し、かつ右契約において将来における流水使用については相互に協議するとあるのを無視して原告等に協議することなくして本件行政処分をなしたから、本件行政処分は右契約に違反しひいては憲法第二十九条に違反する。

(五)  飲用水を混濁させた違法

原告福島、同松坂、同工藤、同渋田見は従来鹿島川の流水が飲用に適するのでこれを飲用に供して来たが、右原告等四名は本件行政処分による青木湖導水路建設後は右導水路からの分水を飲用に供するのやむなきに至つたところ、右分水は不潔混濁し人体に有害な菌が多数混入しており到底飲用に適しない。被告は本件行政処分の結果としてかような事実の発生すべきことを予見して本件行政処分をなしたもので、これにより右原告四名は生命身体に重大な脅威を受け、又水不足のため生活に支障を来した。よつて本件行政処分は憲法第十一条第十三条に違反する。

(六)  差別待遇の違法

被告は本件行政処分は政府の方針である電源開発その他地方総合開発の目的で行われたから公共の福祉に適合すると主張する。しかしながら大町市大字平地籍に新規に開田された面積が二百町歩以上、同市大字大町附近の開墾予定地七百町歩、その他同市大字常盤、北安曇郡池田町等高瀬川沿岸地区の広範囲な新規開田等を考慮すれば、本件行政処分によつて許可された前記計画によつて供給される水は到底これらの需要をみたすに足りない。しかるに被告が昭電にその一部の使用を許可したことは、要するに本件行政処分が公共の福祉を目的とせず農業水利権者から水利権を奪いこれを一営利会社である昭電に与え、平等なるべき水利権者に対し差別待遇をなしたものに外ならずこれ憲法第十四条に違反する。

(七)  財産権収用の補償をしない違法

もし本件行政処分が公共の福祉に適合するものならば被告は正当な補償を支払つて原告等の水利権を用うべきであるが、被告は原告等の水利権を無償で公共の福祉のために収用したものであるから本件行政処分は憲法第二十九条に違反する。

(八)  求意見、通知、公示を欠くの違法

被告は本件行政処分をなすに当つては既得水利権者に同意を求めるか又は少くとも意見をきくを要し、もし行政処分をなしたときは遅滞なくこれを既得水利権者に通知するか又は当該市町村役場の掲示板、官報、新聞紙等に公示をなすことを要する。その理由はかゝる手続をとらなければ既得水利権者は本件行政処分によつて自己の水利権が侵害されていながら、かゝる行政処分のあつたことを知る機会がないため、行政事件訴訟特例法第五条に定める出訴期間を徒過し、河川法第六十条但書に規定する訴訟を提起する機会を失いその救済を得られない事態が発生するおそれがあるが故に行政処分の告知又は公示はこれらの法条の要請するところと考えられるからである。しかるに被告は本件行政処分をなすに当り原告等に意見を聞き同意を求め通知公示をなすことをいずれも怠つたから本件行政処分は違法でありかつ職権濫用で取消さるべきである。

もつとも被告は内務省土木局長通牒による手続を履践したと主張する。右の事実は認めるが、被告が意見を求めた町村は水利権者ではなく又原告等の水利権に対し管理処分権をもつているわけではないから、右手続を履践したことは法律上無意味である。しかも被告は原告等の意見をきいていないから右手続の履践は本件行政処分の違法性を阻却するものではない。

なお行政事件訴訟特例法第五条第三項但書にいわゆる正当事由とは行政処分の告知公告がなされていることを前提とししかもなお海外旅行等でこれを知らなかつた場合のことをいゝ、本件の如く告知公告がないため行政処分を知らなかつた場合を含まない。

被告が本件行政処分を地元民に解説普及させたとの事実は知らない。

(九)  職権濫用の違法

以上のように被告の本件行政処分は手続上は和解契約に違反し、かつ原告等の同意を得ず意見もきかず告知公告をなさずして行われ、その内容は原告等の水利権を侵害するものである。しかもかような事態を惹起したのは、昭電が各河川の流量及び原告等の水利権について何ら具体的な説明をなさず単に抽象的に原告等の水利権を侵害しないとの結論のみを記載した申請書を提出したのに対し、被告がこれをうのみにしかつ原告等水利権者の水利権が侵されないような施設を完備することを命じないでこれを許可したことが原因である。憲法第十二条は基本的人権の濫用を禁止しているが、これは公務員の職権濫用をも禁じた規定である。故に被告の本件行政処分は職権濫用であつて憲法第十二条に違反する。

(十)  結論

以上主張の通り本件行政処分は憲法の各条項に違反し同法第九十八条により無効である。もし本件行政処分が河川法、長野県発電水利使用規則に適合するというならばかような違憲の行政処分を容認する右法令が違憲となると解する。

よつて本件各行政処分の取消を求める。

(乙)  被告の主張

(一)  原告等の公水使用権の性質等

原告等は本件各河川に慣習法上の水利権を有するとなしその内容につき種々主張するが、原告等の有する水利権がその主張のような内容を有することは否認する。原告等の有する慣習法上の水利権は公水使用権であつて次のような性質を有する。なお本件各河川中には河川法準用河川と河川法の適用ないし準用のない河川とがあるがいずれにしても公水使用権の性質は同一である。

(1) 成立

公水使用権が慣習によつても成立しうることは学説判例の早くから承認するところである。しかしそれが単なる河川の自由使用と区別して特定の範囲の人々にのみ特有の利益として慣習上承認されるためには次のような要件を具備していなければならない。

(イ) 社会のすべての人に共通の利益でなく、ある限られた範囲の人々にのみ特有の利益として承認されるに至つたものであることを要する。

即ち権利として認められるためには単純な自由使用とは区別さるべきものでなければならない。権利の観念は個体化していることを要素とするので、社会の何人でも平等に享受し得る利益は権利の観念に属しない。公水は一般に公共の利用に供されているのである範囲においては社会のすべての人々が平等に且つ自由に利用し得ることを常態としている。慣習法上の使用権は権利の設定行為によるものでないから自由使用と混同され易いけれども、権利主体が一定していてその者に限つてなし得る使用でなければならない。

(ロ) ある程度継続的使用であることを要する。

自由使用がその性質上一時的使用に止まるのに対して慣習法上の権利たるためにはその利用者が公水に接近して居住していることを要し、沿岸住民たるの地位に基き継続してある目的のためにこれを利用するものであることを要する。

(ハ) その使用が相当長い期間に亘り平穏かつ公然と行われ一般に正当な使用として承認されていることを要する。

もし絶えず紛争があつてその争が解決されておらぬとすれば、単にある期間事実上これを使用していたとしても正当に使用権を有するものとは認め難い。

(2) 性質

慣習法上の公水使用権は公権である。このことは行政庁の処分によつて設定せられた使用権については明瞭であつて、行政庁は公水の管理者として管理権に基いて特定人に対して公水又はその附属物の占有使用を許容するのである。換言すれば公水使用権は公の行政権の主体としての国家と使用者である私人との間に存する公権である。もしこれを私権であるとするならば(河川法第三条参照)設定行為は行政処分ではなく民法上の契約でなければならない。しかし河川の流水使用権の設定が単に財産的価値の考慮に基いて行われるものでなく、主として公共の利益の見地から行われるものであつて公法上の行為であることは疑を容れる余地はない。

慣習法上の公水使用権は設定処分がないので明確を欠くが、公水である以上は河川法の適用準用の有無にかゝわらずその管理権は国又は公共団体にあるから、一私人が慣習法上の使用権を有する場合でも行政庁の処分によつて使用権が設定せられた場合と同様に、その権利は公水の管理者としての国又は公共団体と私人との間に存する権利であつて公権といわなければならない。なお慣習法上の公水使用権の存する公水に河川法が準用せられた場合には、明治二十九年勅令第二百三十六号河川法施行規程第十一条により右使用権は河川法又はこれに基く命令により許可を受けたものとみなされるのであるから、本件各河川中河川法の準用されている部分については右準用のときから原告等の公水使用権は河川法の規定に従わなければならない。勿論私人のもつている権利であるから私益に役立つのは当然であり又その実質において物の使用を内容とする財産的価値を有する権利であることは疑がないが、このことは直ちに慣習法上の公水使用権の公権としての性質を否定するものではない。

(3) 主体

慣習による公水使用権の主体は慣習によつて定まるものであるが、これは公水使用の目的によつて異る。田地の潅漑用の公水使用権は公水に隣接する特定の田地に伴う権利であつて土地所有権とともに移転するものであり、飲用のためにする公水使用権は公水沿岸地の居住者に属する権利であつてその土地に居住することにより当然にその権利を有する。

(4) 効力

(イ) 完全なる排他的独占的効力を有しない。

これは公水が公共用物であることから生ずる当然の原則であつて、特定人が独占的な使用権を有することは公共用物たる性質に反する。勿論ある一定の内容の公水使用権が成立している以上は他の者がみだりにその権利を侵害することを得ないのは当然で、その権利の行使を不可能ならしめるような結果を来すことは一般に許されないが、その権利の行使に妨げのない限りは同じ公水の上に他の者が新に使用権を取得したとしてもそれは権利侵害とはならない。このことは明治二十九年三月二十三日、明治三十一年十一月十八日、明治四十二年四月二日各大審院判決、昭和二年十一月二十四日、昭和七年二月二十日各行政裁判所判決中に判示せられているところである。

(ロ) その使用目的によつて限定される。

慣習法上の公水使用権において、その使用目的は潅漑飲用流木漁撈等種々であるが、何れの場合にも使用権の範囲はその目的を充すに必要なる限度に止まらねばならない。仮令公水使用権者が必要以上の水量を事実上占用していてもこれを権利と認めることはできないから、公水使用権者は自己の使用目的が阻害されない限度においては他人の使用を差止める権利を有するものではない。又一方においては公水使用権者は唯ある特定の目的のため公水を使用する権利を有するに過ぎないのであるから、その他の目的のためにこれを使用することを自己の権利として主張することを許されない。従つて潅漑用の慣習法上の公水使用権を有する者は自己の所有の田地の潅漑に必要な範囲において権利を有するに過ぎず、原告等の主張するようにその流水使用量は無制限にして必要があれば全水量を如何なる目的にも使用する権利を有するものではない。このことはさきに述べた公水使用権の排他性独占性を有しないことからも当然理解し得ることであつて、明治三十一年十一月十八日大審院判決、明治三十七年十月二十日行政裁判所判決もこの見解をとつている。

(ハ) 公益上ある程度の制約に服する。

慣習法上の公水使用権も権利である以上、私人がその権利を侵害すべき方法で、同じ水流を使用し又はその水流に工事を行うことを得ないのは勿論、公水を管理する行政庁も既存の権利を侵害するような使用権を設定することはできない。しかしながらその不可侵性は公水使用権が公共用物の上に存する公権であることの性質上、私法上の財産権のように完全ではない。公水使用権は公共の利益のためにある程度の制約を受けることを免れないもので、公益上あるいは治水の必要によりあるいは時勢の進展に伴い水を他の目的に使用することの必要により、公水管理権の作用として多少の制約を加えられることがあるとしても、公益上の正当の理由に基いているものである限りはこれを違法ということはできない。前述(イ)記載の各判決もこれと同旨である。

(二)  原告等の各公水使用権の内容

原告等が鹿島川、籠川又は高瀬川左岸用水路より潅漑用水を、及び原告高山(同原告は井戸水を飲用水として使用している)を除く他の原告等四名が右各河川より飲料用水を取水する慣習法上の権利を有していることは認めるが、消防その他雑用のための使用は単なる自由使用に過ぎない。又潅漑用及び飲料用の権利として認められる使用水量も従来使用し来つた必要水量に限定されるのであつて、原告等の主張する如く潅漑及び飲料用その他の目的に使用するため全水量に及ぶものではない。このことは、すでに述べた如く慣習法上の公水使用権の性質上当然であるし、かつ将来需要量が増加することがあるかも知れないことによつて影響されるものではない。原告等のような主張に基き公共用物たる流水全量の独占的使用権が認められるべきでないことはいうまでもない。

以下各原告について個人別にその有する権利を説明する。(別紙六参照)

なお原告福島、同松坂、同工藤、同渋田見の左記所有地及び住居はいずれも青木湖導水路下方地区に存在する。

亡福島安恵及び福島光雄

大町市大字平及び大字大町に田十筆七反八畝十五歩を所有し、うち二筆二反四畝二十歩は野口東堰から、二筆一反九畝十六歩は飯綱宮堰から、六筆三反四畝九歩は大町新堰から引水して潅漑に使用し、他に野口東堰の水を飲料用水として使用する慣習法上の権利を有している。

なお原告主張の日に福島安恵が死亡し原告福島光雄が相続により右公水使用権を承継したことは認める。

松坂美佐男

大町市大字大町及び大字平に田八筆六反八畝二十一歩を所有し、内一筆六畝十七歩は野口東堰から、他はすべて飯綱宮堰から引水して潅漑に使用し、他に野口東堰の水を飲料用水として使用する慣習法上の権利を有する。

渋田見重隆

大町市大字大町及び大字平に田十一筆一町三反二十四歩を所有し、内八筆七反四畝三歩は野口東堰から、二筆二反三畝二歩は野口西堰から、一筆三反三畝十九歩は飯綱宮堰から引水して潅漑に使用し、他に野口東堰の水を飲料用水として使用する慣習法上の権利を有する。

高山潔

北安曇郡池田町大字会染に田十六筆七反十八歩を所有し、内七筆三反九畝二十六歩は広津発電所導水路から分岐した高瀬川左岸用水路の支流内川の支流日岐堰から、九筆三反二十二歩は同内川支流中之郷堰から引水して潅漑に使用する慣習法上の権利を有する。

なお同人は飲料用水については井戸を使用している。

(三)  公水使用権侵害による違法がないこと

前述のとおり原告等の有する公水使用権の権利として主張しうる範囲はその必要水量に限られるのである。そして本件行政処分は前述のように青木湖導水路と既設用水路との交叉点に分水施設を設け、後述のように既設用水路附近の既得公水使用権者の必要水量及び将来開墾すべき水田の必要水量を放水することになつているから何ら原告高山を除くその他の原告等の公水使用権を害しない。又原告高山の権利は後述の通り本件許可処分によつて何等の影響をも受けない。

しかのみならず原告等は従前鹿島川の冷水を直接潅漑用水として使用し来つたものであるが、本件行政処分により鹿島川の流水は一旦青木湖に貯溜され水温を数度高められ、又鹿島川残水及び籠川からの引水もまた一旦青木湖導水路の温水と混合されて水温を高められて(第四、(六)、(八)参照)原告等の潅漑用水として供給され、かつ青木湖を大貯水池として利用することにより水の供給に計画性と恒常性が附与されに至つたものであつて、これらが原告等の稲作に与えた好影響は甚大なものであり、原告等は本件行政処分によつて利益を得こそすれ権利侵害などは毫も蒙つていないのである。

なお被告は本件行政処分において、万一空前の大旱害等の天災が発生しそのため昭電において四溪流から取水するときは沿岸公水使用権者の潅漑、飲用、その他の用水及び魚族の棲息遡上に支障を来す場合があることを慮り、かゝる場合はまずこれらの需要を充足させるべく、昭電には水を使用させないように前記附属命令書に規定し、もつて既得公水使用権を保護したものである。

原告等は流域変更のみによつて原告等の権利が侵害されると主張するが、たとい上流において流水路に変更が加えられても下流の分水口において原告等の使用し得べき水量が確保される限り何等原告等の利益が害されるわけがなく、権利の内容たる具体的利益に影響のない以上権利の侵害があり得る筈がない。

又原告等は公水使用権の客体に制限があつても、本件流水に使用権を有する全権利者のために流水全量に対する権利侵害を主張すると述べるが、慣習法上の公水使用権も前述のように各権利者毎に成立するのであつて、自己の有する権利以上の権利の主張は許さるべきものではなく他に並立的に使用権者があるの故をもつて自己の権利内容が拡張するわけのものでもないから右主張はそれ自体不当といわなければならない。

(1) 原告福島同松坂同工藤同渋田見について

同原告等が従前慣習法上の権利として潅漑及び飲料用に使用していた水量は被告には明白でないが、さきに述べた如く慣習法上の公水使用権の効力はその使用目的を充たすに必要な限度に止まるものであるから、本件許可処分が同原告等の潅漑用水及び飲料用水としての目的を阻害せずその使用に支障を及ぼさなければ同原告等の権利を侵害したものというを得ない。

第三次行政処分による変更後の水の需給計画を再説すれば次の通りである。

青木湖導水路に青木湖から年間を通じ最大五・五立方米毎秒最小〇・四三八立方米毎秒を、既設用水路の上流から鹿島川の残水を最大二・八七四立方米毎秒最小〇・〇〇六立方米毎秒を、籠川から最大〇・七六七立方米毎秒最小〇立方米を、即ち合計最大七・四二二立方米毎秒、最小〇・七七六立方米毎秒の水量を流入させる。その各時期毎の詳細な数量は別紙九の取水量欄に示す通りである。

前記青木湖導水路の水を木崎湖に対しては最大一・五〇〇立方米毎秒最小〇立方米を、十五ケ所の既設用水路に対しては最大四・七六立方米毎秒最小〇・七七六立方米毎秒を、合計最大六・二六立方米毎秒最小〇・七七六立方米毎秒の水量を放水しその余水を常盤発電所取水口に注入する。その詳細は別紙八の各分水量欄及び別紙九の分水量欄に示す通りである。

同原告等の所有地について潅漑に要する水量は別紙六に示す通りである。野口東堰からは原告福島同松坂同渋田見の各所有地の一部、原告工藤の全所有地の潅漑用水及び右原告四名の飲料用水が、飯綱宮堰から原告福島同松坂同渋田見の各所有地の一部の潅漑用水が、大町新堰から原告福島の所有地の一部の潅漑用水が、野口西堰から原告渋田見の所有地の一部の潅漑用水が各引水されている。

そして同原告等は各用水路から他人に優先して引水する権利を有するわけではないから、各用水路の水量がその用水路から潅漑用水を引水する全耕地の必要水量及び飲料用水等の雑用水の必要水量を充すに充分でなければ同原告等の権利も満足されないわけであり、逆に各用水路の水量がそれから引水する全耕地の潅漑必要水量及び雑用必要水量を充すに充分でありその潅漑に何らの支障がなければ同原告等の権利は侵害されないものといゝ得るのである。

同原告等が潅漑及び飲料用水として使用するため引水している前記四用水路から、潅漑用水を引水する全耕地の総必要水量、並びに飲料用水を引水する沿岸住民の総必要水量(但いずれも青木湖導水路下方に存在又は居住するものに限る。)の合計量は第一次行政処分によれば別紙七に示す通りであつたが、その後青木湖導水路通過地点をやゝ上流に移動させ各用水路掛りの支配面積を増大させた第三次行政処分により別紙十に示す通りとなつた。

この各用水路別の必要水量は本件行政処分によつて許可された前記計画(変更後)に示された右各用水路に対する青木湖導水路からの放水量に等しいから(別紙八の各分水量欄参照)、その必要水量は十分みたされるわけであり、従つて同原告等の所有地の潅漑及び飲料に必要な水量は十分充たされ何ら支障を来さないから、本件許可処分によつて同原告等の権利は侵害されない。

なお籠川は本件行政処分の対象となつておらず、本件行政処分により影響を受ける河川とは全く別個の河川であつてその影響を受けないから、本件行政処分は籠川に対する同原告等の公水使用権を侵害しない。

(2) 原告高山について

原告高山は前述の如く高瀬川左岸用水路からのみ必要潅漑用水を取水しているのであつて、他からこれを取水する権利を有しない。

高瀬川左岸用水路は昭和十三年三月十五日に長野県が高瀬川及び農具川の河水引用並びに工作物設置の許可を得て県営高瀬川沿岸農業水利事業として建設した潅漑用水専用水路の一であつて、大町市大字社字丹生子九百五十一番地先(閏田分水口)において広津発電所導水路から分水して、高瀬川左岸において大町市大字社、北安曇郡池田町、同郡明科町方面を潅漑する用水路である。この閏田分水口における毎秒当りの取水量は左の通りである。

挿秧期(自五月二十日至六月十日)

五・一二立方米

常時潅漑期(自五月一日至九月三十日但挿秧期を除く)

三・四八立方米

非潅漑期(自十月一日至翌年四月三十日)

一・〇〇立方米

そしてこの取水量は本件行政処分によつて何等影響を受けないのであつて本件行政処分の各附属命令書は「現在長野県が使用している農具川の水利に支障を与えてはならない。」と条件ずけているのである。

即ち広津発電所導水路にはその高瀬川取水口から高瀬川の流水が、農具川取水口から農具川の流水が流入するわけであるが、本件行政処分の結果農具川取水口よりの取水量が従前よりも減少するとはいえ、高瀬川取水口よりの取水量が従前よりも増えるため、その合計水量は従前よりも増えるのであるから、これにより右用水路への分水量は何等影響を受けず従前通りの水量が分水される。

以上の通り高瀬川左岸用水路より潅漑用水を引水して使用する原告高山の権利は本件行政処分によつて何等の影響を受けずこれが侵害されるとの主張は全く理由がない。

(四)  和解契約に違反するの違法がないこと

原告等主張のような経過を経てその主張のよう和解契約をしたことは認める。しかし右契約は高瀬川沿岸住民全部に効力が及ぶものではなく、単に右訴訟の原告であつた原告高山等と被告との間で右訴訟の原告等の住所地である北安曇郡池田町大字会染の潅漑用水と広津発電所の用水との関係を定めたものに過ぎずその他の者及びその他の地区に対しては何等効力がないから、原告高山以外の原告等が右契約を援用して本件行政処分を攻撃するのは失当である。そして本件行政処分は広津発電所用水と原告高山の右池田町大字会染における潅漑用の公水使用権との関係に何ら直接変更を加えるものではなく、又間接的にも何等の影響を与えるものではないので、右用水相互間の関係とは何ら関係がないものである。従つて被告は本件行政処分をなすに当り右契約により原告等と協議を行う義務はない。

(五)  飲用水を混濁させた違法のないこと

原告等主張の流水が一時混濁したことは認めるがこれは永続的なものではない。その他の事実は否認する。もともと原告等が本件行政処分以前から飲用に供していた用水路の流水は飲用に適しなかつたものである。

(六)  差別待遇の違法がないこと

本件行政処分は国の電源開発政策に呼応し地方総合開発の一環としてなされたもので、本件行政処分により従来無駄に放流されていた鹿島川の流水を青木湖に導きこの際発電用に使用したのち貯溜し水温を高めた上必要潅漑水量を放流しさらに既設常盤、広津両発電所の発電量を増加することになり、以て高瀬川上流地方の産業振興、観光、交通、文化の向上を期待しうるものであり、これによつて既得公水使用権者の権利を害しないのみならず前述の通りこれに多大の利益を与えるものであつて、公共の福祉に適合するものというべく、原告等主張のように昭電と既得公水使用権者とを差別待遇したものではない。

(七)  財産権収用の補償をしない違法のないこと

本件行政処分は原告等の公水使用権を侵害しないから被告はこれに対して補償をなす義務はない。

(八)  求意見、通知、公示を欠くの違法がないこと

河川法及びその関係法規並びに長野県土木取締条例によれば、被告が河川の水利使用の許可をするに当つて事前に既得公水使用権者に対して許可処分の内容を告げて意見を求めるか、又は許可処分を通知し若しくは公示をすることを要する旨の規定は存しないから、かゝる手続をしなかつたからといつて本件行政処分が違法となるものではない。

なお、発電原動力の用に供する水利使用の許可については行政処分の円滑をはかるために、「発電原動力の用に供する水利使用出願書取扱方の件」(大正元年十一月二十六日付土第二三七七号各地方長官宛内務省土木局長通牒)により、「地方庁より一定の期限を附し関係ある市町村に諮問する。」取扱になつている。そこで被告はこれは法律上の必要手続ではないが本件行政処分についても昭和二十六年十二月十四日附をもつて北安曇郡大町(市制施行前)及び平村(同前)に諮問したところ、両町村においてはそれぞれ町村議会の議決を経て同月二十六日及び同月二十三日附で回答があつた。

さらに被告は本総合開発において水利使用の外農業、工業、観光、交通等の振興をはかるので、地元の了解を得べく地元選出県議会議員、町村長、町村議会議員、総合開発審議会部会をはじめ地元農民に数次にわたり解説しその普及徹底をはかつたものである。

本件行政処分に当り原告等のような既得公水使用権者の同意を求めることは不要である。その理由は本件行政処分は何らその公水使用権を侵害しないからである。

なお行政事件訴訟特例法第五条には出訴期間の定めがあり、行政処分の相手方ではない既得公水使用権者は行政処分のあつた旨の通知を受けるか又は行政処分の公示がないと出訴期間を徒過するおそれがないではない。しかし法令の規定が前述の通りである以上、訴訟手続法に出訴期間の定めがあるからといつて、立法論としてはともかくも、現行法令の解釈としては右の通知公示を必要とするものとは考えられない。しかも期間内に出訴できなかつたことが正当事由によるときは期間経過後といえども出訴が認められるのであるから、この点で既得公水使用権者の権利は十分保護されるのである。

(九)  職権濫用の違法がないこと

被告の本件行政処分は何ら原告等の公水使用権を侵害せず、かつ右行政処分をなすに当り、被告は何らの職権濫用行為をしなかつたものである。

(十)  結論

以上のとおり原告等の請求は何ら理由がないから棄却さるべきである。

第十、(証拠省略)

理由

第一、総説

この判決の「事実」記載のうち、第三、(一)本件各河川の位置、(二)右河川に対する河川法の準用、第四、(一)計画樹立までの経緯、第五、(一)第一次行政処分、(二)第二次行政処分及び(三)第三次行政処分(末段記載の事実を除く)はいずれも当事者間に争がなく(成立に争ない乙第二号証によれば第一次行政処分出願の日は被告主張の通り昭和二十六年八月二十八日であることが認められる。)、右争ない事実と成立に争ない乙第四、十、十二号証第十六号証の五、証人相沢武雄同宮代謙三の各証言及び検証の結果を綜合して認め得る、昭電が被告の許可を受け且つその工事実施の認可を受けたところの四溪流の発電水利使用並びに農具川(青木湖を含む)の水の使用計画の概要を記せば次の通りである。

水の使用の目的は昭電が自家用のため発電の用に供するものである。大町市大字平字鹿島山国有林第十四班において小冷沢より〇・八〇立方米毎秒以内を、同第十一班において大冷沢より一・四〇立方米毎秒以内を、同第七班において大川沢より三・一〇立方米毎秒以内を、同第四班において大ゴ沢より〇・七〇立方米毎秒以内を、以上合計六・〇〇立方米毎秒以内を取水し、これを新設の導水路により大字平字青木に導き、同所二一〇〇七番地所在青木発電所において発電に使用する。その最大発電使用水量は四・〇〇立方米毎秒以内とし、内常時発電使用水量は一・〇〇立方米毎秒とする。発電力は最大九千二百キロワツト時、常時二千三百五十キロワツト時である。発電した後水は青木湖に放流する。発電に使用しない水は余水路をへて青木湖に導く。青木湖に導入された水は貯溜調節される。青木湖の水位は最高標高八二一・〇六米(零米)とし最低水位は標高八〇一・〇六米(零米以下二〇米)とし、その範囲を超えることはできない。これにより従来青木湖の利用水深一・九〇米であつたのが二〇・〇〇米に増加したわけであつて同湖を貯水池として一層有効に使用できることとなつた。青木湖放水量は五・五〇立方米毎秒以内とし、隧道、暗渠、開渠により中綱部落、木崎湖右岸、小熊山麓、二ツ屋、借馬部落、大原部落をへて大字平字大出に位置する東京電力株式会社高瀬川第一発電所放水路の高瀬川放水口に至る青木湖導水路により放流され、途中これと交叉する在来の鹿島川からの十五用水堰に必要な水分を行う。即ち潅漑期(自五月二十一日至九月十日)においては十五の堰に対し合計四・七六立方米毎秒を限度として関係潅漑用水に必要な水量を、又非潅漑期においては〇・七七六立方米毎秒を放流する。潅漑期においては青木湖で貯溜されて温度を高められた水を放流する。青木湖導水路の残余の水は前記高瀬川第一発電所の放水口からサイフオンにより高瀬川を横断して既設の広津発電所導水路に導かれ、昭電所有の大町市大字常盤所在の常盤発電所及び長野県北安曇郡広津村大字梶本所在の広津発電所で発電の用に供せられた上、大字梶本字ヤーゴ一八六九八番地から犀川本流に放水される。かくて常盤、広津両発電所の渇水期電力増強に役立つことともなる。

第二、水利権侵害の有無について

(一)  原告等の本件各河川の流水を使用する権利の成立とその性質

本件第一、二次行政処分当時は前述の通り鹿島川(大川沢を含む)高瀬川農具川には河川法が準用されていて同法により、また当時未だ河川法の準用をみない大ゴ沢大冷沢小冷沢については長野県土木取締条例により、いずれも被告が河川管理者として公共用物たる右各河川を管理する権限を有したことが明らかであり、なお同法の準用又は同条例の施行以前においても右各河川の公水たる性質にかんがみ、被告は右各河川の管理権を有していたと認められる。本件第三次行政処分当時は大ゴ沢、大冷沢及び小冷沢にも河川法が準用されていたことは前述の通りである。

本件各河川即ち四溪流、鹿島川、高瀬川及び農具川は公水として古くから沿岸公衆の潅漑、飲用その他の雑用に使用されてきたこと並びに原告等(原告福島光雄の先代安恵は後に述べる通り昭和二十九年六月二十八日死亡し、光雄において相続により安恵の地位を承継したものであるから、以下「原告等」又は「原告福島」という場合、それが昭和二十九年六月二十八日以前の事項に関するときは他の原告等と共に安恵を又は安恵を意味し、若し同日以後の事項に関するときは他の原告等と共に光雄を又は光雄を意味するものとする。)のうち原告福島、同松坂、同工藤、同渋田見が鹿島川及び籠川の流水を潅漑及び飲料用に使用し、原告高山が高瀬川左岸用水路の流水を潅漑用に使用する慣習法上の権利を有することは当事者間に争なく、方式及び趣旨により公務員が職務上作成した文書と認むべきにより真正なる公文書と推定する乙第十三号証の一及び二、成立に争がない乙第十六号証の五並びに原告工藤邦夫同高山潔(第一・二回)各本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。

原告福島光雄の先代安恵はかねて大町市大字平字五所川、字土井下、大字大町字大原に水田十筆合計七反八畝十五歩を耕作し、うち二筆二反四畝二十歩は野口東堰から、うち二筆一反九畝十六歩は飯綱宮堰から、うち六筆三反四畝九歩は大町新堰から、籠川及び鹿島川の流水を引水して潅漑用水として使用し、また安恵は原告福島光雄の肩書住居に居住し野口東堰を通じ鹿島川の流水を飲料用に使用していた。

原告松坂はかねて大町市大字アラヤ、大字大町字大原に水田八筆合計六反八畝二十一歩を耕作し、うち一筆六畝十七歩は野口東堰から、うち七筆六反二畝四歩は飯綱宮堰から、籠川及び鹿島川の流水を引水して潅漑用水として使用し、肩書住居に居住して野口東堰を通じて鹿島川の流水を飲料用に使用している。

原告工藤はかねて大町市大字平字家の裏、字梨ノ木、字一枚田に水田十三筆合計八反八畝十二歩を耕作し、肩書住居に居住し野口東堰から鹿島川の流水を潅漑用及び飲料用に使用している。

原告渋田見はかねて大町市大字平字三枚田、字大田、字家ノ前、字家ノ西、字東又、大字大町字大原に水田十一筆合計一町三反二十四歩を耕作し、うち八筆七反四畝三歩は野口東堰から、うち二筆二反三畝二歩は野口西堰から、うち一筆三反三畝十九歩は飯綱宮堰から、籠川及び鹿島川の流水を引水して潅漑用水として使用し、肩書住居に居住して野口東堰から鹿島川の流水を飲料用に使用している。

これらの水田及び住居はいずれも青木湖導水路下方地区に存在する。

原告高山はかねて長野県北安曇郡池田町大字会染字尻太、字久保田、字東田に水田十六筆合計七反十八歩を耕作し、広津発電所導水路の流水即ち農具川及び高瀬川の流水を引用したものを高瀬川左岸用水路を経て右水田の潅漑用に使用している。

以上の事実が認められる。

前記福島安恵は昭和二十九年六月二十八日死亡し原告福島光雄がその相続人として安恵の地位を承継したこと及び原告高山は肩書住居に居住して同所の井戸により飲料用水の供給を受けていることは当事者間に争がない。

前記乙第十六号証の五、証人西沢正勝の証言、検証の結果及び原告工藤邦夫本人尋問の結果によれば、四溪流の取水口の下流約六キロ半なる鹿島川左岸に猫鼻堰(野口堰)取水口があり、ここで鹿島川の流水を取入れており、前記野口東、野口西両堰は結局右猫鼻堰から取入れられた水が流下して分岐したものであること及び右猫鼻堰取水口の下流約四キロなる鹿島川左岸に大町新堰取水口があり、ここでは鹿島川の流水を取入れるばかりでなく、それだけで足りぬ場合は鹿島川対岸まで導水された籠川の水をサイフオンによつて鹿島川を横断させて取入れており、前記大町新、飯綱宮両堰は結局右大町新堰から取入れられた水が流下して分岐したものであることを認め得る。

公水使用権の性質について原告等は私法上の水利権であると主張し被告は公法上の公水使用権であると主張する。

思うに右権利が管理者の設定行為によつて成立したときは、その法的性質は管理者が行政庁としての公益判断に基き、優越的権力作用として使用権を設定する点に鑑み公法上の権利であると解すべく、右権利が慣習により成立したときもこれと別異に解する理由はないから、河川法準用令によつて準用せられる河川法第三条(敷地を除く)の法意に照らしても原告等の本件流水使用権は河川法準用前、前記条例適用前から公共用物使用権という公法上の権利であると認むべきである。

右の慣習による公水使用権は右河川に河川法が準用されるとともに河川法施行規程により河川法又はこれに基く命令により許可を受けた権利とみなされ、また右各河川に前記条例が適用されるとともに明文はないが条理上同じく右条例によつて許可を受けたものとみなされ、以後これらの法令に従つて規制されるに至ると解せられる。そして右河川法の準用又は右条例の適用によつてとくにその河川に存する公水使用権の効力に消長を来すことはないから、これにより公水使用権が侵害されひいてはこれらの法令が違憲であるとの原告等の主張は理由がない。

慣習による公水使用権は公共用物の一般使用と異り一つの権利であるから、特定人の利益として承認され、或程度継続的使用でなければならず、かつ相当長期間にわたり平穏公然に使用されこれが一般に正当な使用として承認されていることを要する。従つて潅漑及び飲料のための公水の使用は公水使用権の一部を構成するものであるが、消防、洗濯のための使用は一般使用であつて権利とはいえずもとより公水使用権を構成しない。

慣習による公水使用権者が公水を引水する方法は慣習により決定される。原告等が慣習法上の権利として本件各河川から引水するには前述の通り堰を利用する方法による。このほか原告等は地下滲透による方法で引水する権利があると主張する。しかし原告等が地下滲透水を利用する方法により本件各河川の流水を使用する慣習法上の権利を有すると認むべき証拠はないから、本件行政処分によつて原告等が籠川及び鹿島川並びに高瀬川の地下滲透水の使用を妨げられたとの原告等の主張は採用しない。

以上の見地に立つて原告等の公水使用権を要約すると、原告福島、同松坂、同工藤及び同渋田見の潅漑用公水使用権は別紙六の第一、二、三欄記載の通りであり、このうち野口東、野口西両堰は鹿島川から引水するものであり、飯綱宮、大町新両堰は鹿島川及び籠川から引水するものである。而して同原告等は野口東堰を通じて鹿島川の流水につき飲料用公水使用権を有する。又原告高山は高瀬川左岸用水路を通じて高瀬川及び農具川の流水につき潅漑用公水使用権を有する。

(二)  原告等の公水使用権の効力は必要水量に限られるか

原告等はその水利権は本件各河川の流量全部に及ぶから、右各河川の流域変更をなしその流量の一部の使用を昭電に許可した本件行政処分は、その許可水量の如何にかゝわらず原告等の水利権を侵害すると主張し、被告は原告等の公水使用権はその必要水量に限られるから右各河川の流水の使用を原告等の必要水量を侵さぬ範囲で第三者に許可すれば原告等の公水使用権を侵さないと主張する。

思うに公共用物たる河川は一般公衆の共同使用に供せられて公共の福祉に奉仕すべき使命を有するから、特定人がこれにつき完全に排他的独占的な使用権を有することは公共用物としての性質と相反する。公共用物使用権の効力もまたかような見地から決定されなければならない。故に公共用物使用権の及ぶ範囲はその使用目的達成のための必要限度にとどまるものであつて、この限度を超えて公共用物を使用してもそれは権利としての使用ではなく事実上の使用に過ぎない。これを本件についていえば公共用物たること当事者間に争ない本件各河川につき、潅漑用の公水使用権は潅漑のための必要水量に限られ、飲料用の公水使用権は飲料用のための必要水量に限られる。右にいう必要水量とは現在のそれをいゝ将来開田その他の事由により権利者の必要水量が増加しても権利者の公水使用権が当然に右増加部分にまで及ぶものではない。

従つて本件各河川管理者たる被告が既得公水使用権者の右公水使用権の範囲即ち右必要水量を侵さないようにして新に第三者のために公水使用権を設定すれば、これは既得使用権の侵害とはならないが、もし既得使用権の必要水量を侵す結果を招来するような方法で公水使用権を設定すればこれは違法処分たるを免れない。

右に反する原告等の主張は採用しない。

(三)  原告等は他の公水使用権者のために本訴を追行する利益を有するか。

原告等はその水利権の客体が必要水量に限られるとしても鹿島川高瀬川流域の全水利権者の水利権を守るため本訴に及んだと主張するが慣習により成立した公水使用権は各権利者ごとにその必要水量に限つて成立するのであつて、他に同様の権利者があるからといつて各権利者の権利が拡張されるわけはないから、原告等は他の権利者の必要水量が侵されることを理由として本件行政処分の取消を求める法律上の利益を有しない。憲法第十二条はかゝる場合にも原告等に行政処分の取消を求める利益を附与する趣旨に解すべきものではない。従つて原告等の右主張は採用しない。

よつて以下本件行政処分が原告等の公水使用権を侵害するか否かについてのみ判断する。

(四)  原告高山を除くその他の原告等四名の必要水量

成立に争ない乙第九号証及び前記乙第十三号証の一・二、証人宮代謙三、同相沢武雄、同佐藤寛三、同板倉康二郎、同木下靖巳の各証言によれば次の事実が認められる。

被告は昭和二十六年昭電から水の使用等許可申請が提出されるや、右発電計画の実施によつて長野県の高瀬川上流地方総合開発計画に支障を来すか否か、又関係地域の潅漑用水に不足を来さぬか否かにつき判断の資料とするため、長野県総合開発局をして同年八月から十月までの間鹿島川を含む高瀬川流域の潅漑用水飲料用水の実施調査をなさしめた(この調査結果により乙第九号証が作成されたものである。)。この調査は同局の職員五名によつて実施され、調査区域は大町市大字大町、同平、同社、北安曇郡池田町大字会染に及び、調査対象は各用水堰ごとの既田開田別の支配面積、各堰の導水損失(堰の取水口から水田まで水が流入する間に水路から地下滲透又は蒸発により失われる水量)、有効降雨量、減水深(水田に水を満したまゝその流入流出をとめて二十四時間放置すると水は地下滲透及び蒸発によつて減少するがその減少した水深をいう。而してこれは各堰毎に上流下流一ケ所ずつ水もちの悪い水田を選んで測定した。)、代掻日数(代掻のための所要日数であつて、この算定のため各堰ごとに農家戸数と労働力とについて調査した。)、代掻用水量(乾田状態の水田を湛水させ且つ耕土を水で飽和させるために要する水量)、飲用等雑用水の必要水量であり、この調査によつて得た数値に基き本判決の「事実」第四、(四)記載の公式により鹿島川より取水し青木湖導水路と交叉する各用水堰ごとの青木湖導水路下方地区に存在する水田及び同地区居住住民の挿秧期、常時潅漑期、非潅漑期の潅漑用及び飲料用の各必要水量を算出すれば別紙八記載の通りである。因みに挿秧期とは五月二十一日から六月十日まで常時潅漑期とは六月十一日から九月十日まで、非潅漑期とは右以外の時期をいう。而して右十五の堰のうち原告福島、同松坂、同工藤、同渋田見の耕作水田の潅漑水と飲用水の依存する大町新堰、飯綱宮堰、野口東堰、野口西堰についての支配面積、既田開田の別、代掻用水量、代掻期間、減水深、導水損失率及び必要水量を示せば別紙十記載の通りであり、必要水量の算定には大町測候所設置以来の最低降雨量を示した年の挿秧期常時潅漑期を通じての一日平均の有効降雨量二粍を斟酌した。そして同表記載の挿秧期、常時潅漑期の各単位用水量は一町歩当りの一秒間の単位用水量(立方米で示す)であり、本判決の「事実」第四、(四)記載の公式に従つて算出したものである。この場合既田の減水深は調査水田の平均値を採用し、開田のそれは調査水田の最高値以上の値を採用し、導水損失率は余裕をみてあるので、右の単位用水量は実際の必要水量を上廻るものであつて結局このなかには飲用のための必要水量はもとよりその他の雑用水をも含まれているものである。以上のようにして得た挿秧期、常時潅漑期の単位用水量に原告福島、同松坂、同工藤、同渋田見の各耕作水田面積を乗じて得た右原告等四名の必要水量は別紙六の第四、五欄記載の通りである。

以上の事実が認められる。

(五)  本件行政処分は右原告等四名の必要水量を侵害するか。

前記発電計画を許可した本件行政処分によつて原告高山以外の原告等四名の右公水使用権が侵害されるか否か、即ち右発電計画の実施によつて右原告等四名の前記必要水量の供給が妨げられるか否かを検討する。

(イ)  同原告等に対する昭電の発電計画による供給水量

同原告等は前記の通り従前は鹿島川又は籠川の流水を大町新堰、野口東堰、野口西堰、飯綱宮堰を通じて鹿島川左岸より取水(籠川の流水は鹿島川左岸まで導いて来る。)し来つたものを使用していたが、成立に争ない乙第十、十一号証によれば、本件発電計画実施後は同原告等の必要水量はもつぱら青木湖導水路から右各堰との交叉点において各堰に分水されることになる。昭電が樹立して被告の許可を得た計画によれば、昭電は青木湖導水路からこれと交叉する在来の鹿島川からの十五の用水堰に、潅漑期においては合計四・七六立方米毎秒を限度として関係潅漑用水に必要な水量を又非潅漑期においては〇・七七六立方米毎秒を放流する定めであることは既に認定した所であつて、成立に争ない乙第十、十一号証によれば、計画上各用水ごとの挿秧期、常時潅漑期及び非潅漑期における分水量は別紙八の第二、三、四欄記載の通りであること及び計画上青木湖導水路には、(A)四溪流から引水され青木湖でその他の水と共に貯溜され、そこから取水される所謂青木湖放水、(B)鹿島川から引水され青木湖導水路上方地区で費消された残量である鹿島川残水及び(C)籠川から大町新堰により引水され(鹿島川はサイフオンで横断させる。)青木湖導水路上方地区で費消された残量即ち籠川水量が流入するのであり、これらが結局青木湖導水路を通じて供給される発電用水、潅漑用水等の源となるものであり、その計画上の分量は別紙九の取水量欄記載の通りであることを認め得る。そこで問題は右計画(殊に重要なのは取水量である。)が実現するかどうかである。

よつて本件発電計画において右流入量を算出するに至つた経過を検討し、これが実施の暁にはこの計画通りの流入量を得られるか否かを判断する。

(ロ)  昭和十四年を計画樹立の基準としたこと

本件発電計画の概要は第一、総説記載の通りであるが、かゝる計画は立案の根本方針として予想しうべき最渇水状態下にあつても、既得公水使用権者の潅漑用及び飲料用のための必要水量を優先的に充足させ残余をもつて発電に充てるものとしなければ既得公水使用権を侵害するものとして違法たるを免れない。これ潅漑用水及び飲用水は、電力と異り渇水であるからとて容易に供給先を転換することを得ないが故である。

前記乙第十、十一号証によれば、本件発電計画は昭和十四年の降雨量を基準として立案されており、同年は発電計画樹立直前の二十二年間(昭和四年から昭和二十五年まで)を通じ挿秧期及び常時潅漑期の降雨量が最も少く、右二十二年間平均降雨量の約六十五パーセントに当ることが明らかであるから(とくに乙第十一号証別表第十一、十二表参照)本件発電計画が同年の降雨量を基準としたことは正当である。

(ハ)  青木湖導水路の取水量は確保されるか

本件行政処分附属命令書第二条は、四溪流からの取水量等を定めると共に、潅漑、飲用その他用水に必要な水量は之を放流しなければならないといい、前記乙第十、十一号証及び証人宮代謙三同望月清彦の各証言によれば、青木湖導水路から上方に位置する農耕地は青木湖導水路から潅漑用水を得ることができないから、右上方地区の潅漑、飲用その他の雑用を充たすに足る水は鹿島川に流下せしめ、その余水を四溪流から取入れる。流下水は潅漑用等に使用した後その余水はできる限り新計画水路即ち青木湖導水路に取入れる計画であることを認め得る。

前記乙第十、十一号証、第十六号証の五証人宮代謙三、同望月清彦、同相沢武雄、同佐藤寛三、同板倉康二郎、同木下靖巳の各証言及び検証の結果によれば次の事実が認められる。

(A) 鹿島川残水

四溪流の取水口より約六キロ半下流にあたる大町市大字平猫鼻所在の鹿島川流量測水所において観測した鹿島川の昭和十四年中の毎日の流量(その月別平均値は別紙十一の測水所流量欄記載の通りである。これについてはとくに乙第十一号証別表第十二表測水所流量欄参照)四溪流取水地点と右測水所所在地との流域比〇・七(流域面積即ち前者は三八・五四平方粁後者は五九・五六平方粁であるがこの比率)を乗ずると四溪流取水地点における昭和十四年中の毎日の合計流量が出る。それによるととくに乙第十一号証(別表第十二表取水口流量欄参照)挿秧期最低四・五七七立方米毎秒(六月四、五、六日)最高六・六六七立方米毎秒(五月二十一日、二十五日)、常時潅漑期最低一・九三五立方米毎秒(九月六日から十日まで)最高二・一九四立方米毎秒(八月六日)、非潅漑期最低〇・六六二立方米毎秒(十二月二十六日から二十八日まで)最高一三・〇五二立方米毎秒(五月十三日)であり月別平均流量は別紙十一の四溪流取水口合計流量欄記載の通りである。

本計画によつて、右流量中青木湖に導水される流量の月別平均値は、別紙十一の青木湖取水量欄記載の通りである(とくに乙第十一号証別表第十二表取水口流量欄参照)。これによれば四溪流取水地点における流量の全部(一、六、七、九、十、十一月)又は大部分(その他の月)が青木湖に取水されるのである。本計画実施後の前記測水所における鹿島川の月別平均流量は実施前の前記測水所における月別平均流量から青木湖取水量を差引いた残量即ち別紙十一の鹿島川下流流量欄記載の通りである(とくに乙第十一号証別表第十二表鹿島川下流流量欄参照)。この流量の一部が青木湖導水路上方地区、即ち(1)鹿島川水系上流地区において(2)大町新堰、越荒沢堰、猫鼻堰(野口堰)を経てさらにいくつかの堰に分れて鹿島川左岸地区において、(3)原堰、中堰、西堰を経て(結局原堰は大町新堰に流入し、中堰、西堰は合流した上大町新堰と交叉し源汲堰となつて)鹿島川右岸地区においてそれぞれ費消され残余の水量は右各用水路を経て青木湖導水路に流入するのである。このようにして青木湖導水路に流入する各用水堰のうち主な大町新堰、越荒沢堰、野口堰の合計容量は九・五立方米毎秒であり、しかもこのうち大町新堰は挿秧期、常時潅漑期には籠川から青木湖導水路上方地区に供給すべき水量即ち挿秧期一・五立方米毎秒常時潅漑期一・二立方米毎秒をも通すので、右三用水堰が通すべき鹿島川取水量の最大限は挿秧期八立方米毎秒、常時潅漑期八・三立方米毎秒、非潅漑期九・五立方米毎秒となり、右三用水堰に関する限り鹿島川流量がこれ以上に達しても、超過部分を取水できない。

青木湖導水路上方地区、即ち(1)鹿島川水系上流地区、(2)鹿島川左岸地区中籠川水系の大町新堰掛り地区を除いたその他の地区即ち鹿島川水系左岸地区、(3)鹿島川左岸地区中籠川水系大町新堰掛り地区(源汲堰掛り地区を含む)を除いたその他の地区即ち鹿島川水系右岸地区、(4)籠川水系大町新堰掛り地区(鹿島川の両岸にまたがり源汲堰掛り地区を含む。)の四地区の潅漑飲料用等の月別の必要水量は前記長野県総合開発局の調査によると(とくに乙第十一号証別表第八表の各表参照)挿秧期一・七〇四立方米毎秒、常時潅漑期一・二六六立方米毎秒、非潅漑期〇・三四八立方米毎秒である。このうち(4)の籠川水系大町新堰掛り地区の挿秧期必要水量は〇・七三三立方米毎秒、常時潅漑期必要水量は〇・五五八立方米毎秒であるが、これらは籠川から大町新堰に取水する挿秧期一・五立方米毎秒、常時潅漑期一・二立方米毎秒の水量をもつて充足できるので籠川水系大町新堰掛り地区中鹿島川からの引水をも利用しうる地区においても右時期においてはその必要水量を敢て鹿島川に依存することを要しない。故に籠川水系大町新堰掛り地区の右時期必要水量は次段に説明するように籠川水量の算定に当り考慮すべきことではあるが、鹿島川残水量の算定に当つて考慮すべきものではない。なお非潅漑期においては籠川から取水しないから右地区必要水量は全量鹿島川から供給される。

よつてこれを除外すれば鹿島川残水量の算定に当り前記鹿島川下流流量から控除すべき青木湖導水路上方地区必要水量は別紙十一、青木湖導水路上方地区必要水量欄記載の通り挿秧期〇・九七一立方米毎秒、常時潅漑期〇・七〇八立方米毎秒、非潅漑期〇・三四八立方米毎秒となる。

従つて前記鹿島川下流流量中大町新堰、越荒沢堰、猫鼻堰からは前記総容量の範囲内で、その他の堰からもそれぞれの容量の範囲内で、右地区に流入した水量から右必要水量を控除した水量即ち別紙第十一の鹿島川残水量欄記載の水量が青木湖導水路に流入すべき水量である。しかし途中の導水損失等を考慮すればその七十パーセントに当る水量即ち別紙十一の鹿島川残水量有効水量欄記載の水量が青木湖導水路に流入するのである。これ即ち本件発電計画にいわゆる鹿島川残水取水量(別紙九)と合致するか又はこれを上廻る量である。

(B) 籠川水量

前段において説明したように籠川からは大町新堰を経由して青木湖導水路上方地区(所謂籠川水系大町新堰掛り地区)に従前と同様挿秧期一・五立方米毎秒、常時潅漑期一・二立方米毎秒を引水し(非潅漑期には引水しない)、同地区で挿秧期〇・七三三立方米毎秒、常時潅漑期〇・五五八立方米毎秒を潅漑等に費消し残余即ち挿秧期〇・七六七立方米毎秒、常時潅漑期〇・六四二立方米毎秒を青木湖導水路に流入させることができる。(乙第十一号証別表第十八表No.1.参照)これは別紙九の籠川水量欄記載の水量と合致する。

(C) 青木湖放水量

前記のとおり四溪流から所定の取水量の範囲内で、しかも下流の潅漑飲用その他用水に必要な水量はこれを放流することを条件として取水し(その月別平均値は別紙十一の青木湖取水量欄記載の通りである。)、これと青木湖の自然集水量(乙第十一号証別表第十五表参照)とを合計すると、青木湖に対しては年間九千三百万余トンの水が流入する。そして青木湖の水深二十米を利用することにより二九、七三一、六〇〇立方米を操作することができ、別紙九記載の青木湖放水量に相当する水量を青木湖から放流することは可能である(乙第十一号証別表第十六表参照)。

要するに本件発電計画中別紙九記載の各取水量はいずれも本計画実施によつて実現できるものである。

以上の事実が認められる。

(D) 木崎湖分水量

乙第十、十一号証によれば、本件発電計画実施により青木湖から木崎湖への自然流入が停止するので青木湖導水路から別紙九記載の通り木崎湖へ分水するものと定められ、その結果観光上重要な木崎湖の水位を保持し木崎湖下流農具川掛り水田に必要な潅漑水量を従前通り供給しうるようになつたのに反し、従前の広津発電所導水路農具川取水量に変動を来すに至つたけれども、後述のとおり本件発電計画実施による広津発電所高瀬川取水量の増加もあつて、従前の右導水路閏田分水口から高瀬川左岸用水路への分水量は何ら影響を受けないことが認められる。

かくして別紙九記載の用水路分水量即ち青木湖導水路下方地区分水量を供給できるのである。

(ニ)  右原告等四名の必要水量と供給水量との比較

検証の結果によれば原告福島、同松坂、同工藤、同渋田見の耕作水田及び住居は青木湖導水路下方地区中でも最下流地区に属することが認められる。従つて青木湖導水路の流量が青木湖導水路下方地区所在水田の潅漑用水及び住民の飲用水の全必要水量にみたないときは右流水は地形上まず上流地区の必要水量に充当されるから同原告等の必要水量が不足することとなる。従つて前記青木湖導水路分水量をもつて少くとも同原告等を含めその上流地区居住者及び所在水田の全必要水量をみたすのでなければ同原告等の必要水量はみたされないのである。しかし同原告等よりも上流地区のみの必要水量を算定することは困難であるから、同原告等の上流地区及び下流地区を含めた青木湖導水路下方地区全部の必要水量を算定し、前記青木湖導水路分水量をもつてこれを充足できるか否かを検討するの外はない。

青木湖導水路下方地区の各用水堰ごとの既田開田別の支配面積及びこの水田の潅漑用水及び住居の飲料用水の挿秧期、常時潅漑期、非潅漑期ごとの必要水量及びこれらの合計量は別紙八記載の通りであることは既に第二、(四)に説示した通りであつて、この数量は昭電の計画における各堰分水量と一致することも亦第二、(五)、(イ)に説示した通りであり、これを同原告等関係の大町新堰、野口東堰、野口西堰、飯綱宮堰に限つて見ても各堰ごとの必要水量と発電計画における分水量とは一致すること勿論である。あとは分水の運営管理を如何に行うかであつて、これを適切に行えば同原告等を含む住民全体に水不足を来さないわけであり、これについては後に述べる。

(六)  本件行政処分は原告高山の公水使用権を侵害するか

原告高山が広津発電所導水路の流水即ち農具川及び高瀬川の流水を引用したものを高瀬川左岸用水路をへて潅漑用に使用する公水使用権を有することは前に認定した通りである。右取水口即ち右導水路の高瀬川左岸用水路への分岐点は大町市大字社字丹生子九五一番地に存在し閏田分水口と称することは当事者間に争がない。

前記乙第十、十一号証及び証人相沢武雄同佐藤寛三同板倉康二郎同木下靖巳の各証言によれば、次の事実が認められる。

被告が昭和十三年三月十五日長野県に対し河川法準用令によつて準用せられる河川法に基き県営高瀬川沿岸農業水利事業計画実施のため閏田分水口から高瀬川左岸用水路へ引水を許可した水量は、挿秧期五・一二立方米毎秒、常時潅漑期三・四八立方米毎秒、非潅漑期一・〇〇立方米毎秒であつてこの水量は潅漑時期に流量の少なかつた昭和十四年の各河川流量を標準としても充分分水可能である。即ち広津発電所導水路閏田分水口を通過する流水は、同導水路高瀬川取水口において取水した高瀬川流水取水量から高瀬川右岸用水路分水量を控除した残量に同導水路農具川取水量を加えたものであつてこれは前記高瀬川左岸用水路分水量をはるかに上廻る量だからである(乙第十一号証第一ないし第七表参照)。

しかるに本計画実施による農具川流量の変動及び右導水路高瀬川取水口にあらたに青木湖導水路残水が流入することにより、右導水路閏田分水口流量は若干の変動を受けるに至つたが、なお前記分水量をはるかに超える流量である(乙第十一号証第三十一表参照)。従つて本件行政処分によつては右高瀬川左岸用水路に依存する原告高山の潅漑用公水使用権は何ら侵害されない。

(七)  高瀬川上流水利運営委員会について

本件第二、三次行政処分の附属命令書第十条には、「青木湖よりの取水口の水門及び発電用水と農業用水等との分水に伴う水門の運営管理並びに青木湖の貯溜及び放流の基準については関係当事者と協議の上別途承認を受けなければならない。」とあり、成立に争ない乙第十七号証の一、二当裁判所が真正に成立したものと認める乙第十九号証の一、二証人西沢元信同宮代謙三同大高広義同松下準弥の各証言及び検証の結果を綜合するときは、昭電は右命令書の定めるところに従い、大町(市制施行前)、平村(同前)及び社村(同前)の町村長、議会の議員その他首脳者と協議して昭和二十九年四月二十六日被告主張のような目的、役員及び運営方法を定めた高瀬川上流水利運営委員会を設け、昭和三十年七月二十二日被告の承認を受けたこと、同委員会の委員に選ばれる者は、昭電以外においては、概ね関係町村の町村長、部落の区長、農業委員、農業協同組合関係者又は土地改良区から選ばれた水利委員であること及び具体的場合においては同委員会は一々関係住民の意見を聞いて事を処理していることを認めることができる。

原告等は同委員会は水利権者たる原告等に何ら相談せずに設立され、原告等が潅漑用水飲用水を得ている前記各用水堰と青木湖導水路との分水口を本件行政処分に基いて運営管理して原告等の水利権を侵害していると主張するけれども、附属命令書第十条にいわゆる関係当事者とは必ずしも青木湖導水路の流水に潅漑用水、飲用水を依存する凡ての人を意味するものと解すべきではなく、地区の用水関係代表者又は関係地方公共団体の長等を意味するものと解するを相当とする。でなければ協議を行うことが不可能だからである。固より昭電から協議を求められた地区の用水関係代表者又は関係地方公共団体の長等はできるだけ凡ての利害関係人の意見要望を協議に反映せしむべく、又協議成立した事柄についてはできるだけ凡ての利害関係人に周知せしむべく努力しなくてはならぬこと勿論であるけれども。だから右のように委員会設置につき必ずしも原告等と協議することを本件行政処分において予定していないから、原告等の意見をきくことなく右委員会を設置したからとて違法ではない。又右委員会が原告等の公水使用権を侵害するような運営管理をしていることを認めるに足りる証拠もない。

(八)  水利権は侵害されない

被告は昭和二十六年昭電から水の使用等許可申請が提出されるや、その発電計画によつて関係地域の潅漑用水に不足を来さぬか否かにつき判断の資料とするため、長野県総合開発局の職員五名をして三ケ月間に亘り鹿島川を含む高瀬川流域の潅漑用水飲用水等につき綿密な調査をなさしめたことは既に認定の通り(第二、(四))であり、「第一総説」において認定した昭電の計画が右調査によつて得た資料をその他の資料と共に立案の基礎としたことは乙第九、十号証及び証人板倉康二郎同宮代謙三同望月清彦の各証言によつて明らかである。

右昭電の計画は、昭和四年から昭和二十五年までの間において最も雨量の少なかつた昭和十四年における鹿島川の流量を標準として潅漑に関する計画を立てたことは既に認定の通りであつて、過去二十二年間の最渇水年度の流量を以てしても原告等その他既得権者の潅漑用水を確保できることはさきの説明によつて明らかであり、且つ青木湖面の回復が可能であることも乙第十、十一号証によつて認め得る。

証人相沢武雄同板倉康二郎同木下靖巳同大高広義の各証言によれば、必要水量を算出するに当つては潅漑用水の外に飲用水をも考慮してあり、且つ潅漑用必要水量を算出する基礎たる数値例えば減水深、導水損失の数値は余裕を見込んであり、十五ケ所の分水口の構造、規模については一部地元民の要望もあつて概ねある程度余裕を有たせてあることを認め得るから、飲用についても必要水量は確保される。

証人佐藤寛三同望月清彦同大高広義の各証言によれば、昭電の計画に基ずいて建設した発電施設は被告の命令を遵守し得る構造になつており、各分水口の構造、規模は被告の認可を受けて工事を施行し計画通り或はそれ以上の水量を分水し得る構造であることを認め得る。

最後に、本件行政処分附属命令書第八条には、昭電が本事業のため潅漑その他水利に支障を来し又はその虞があるときは、昭電は関係当事者と協議し、温水、飲用水施設、揚水及び分水設備並びに水路改築その他適当の方法を講ぜねばならぬことを規定し、以て既得の水利権者との調整をはかつている。

以上(五)乃至(八)説明の通りであるから、原告等の公水使用権は侵害されない。

(九)  水不足に関する各証言及び供述について

証人上原輝俊、同内山寿次、同西沢正勝、同大和重一(第一、二回)、同遠山林平、原告本人工藤邦夫、同高山潔(第一、二回)はいずれも青木湖導水路完成後は水不足が甚しく田植、防火等に支障を来した旨供述する。これらの供述は原告等の居住部落とは異る部落に関するもの又は原告等以外の者に関する部分が多く、原告等以外の者が田植防火等に不足を来したとしても、本件行政処分が原告等の公水使用権を侵害するか否かの争点に関係なく、又原告等自身に関するものも水不足の原因が本件行政処分の実施にあることが明らかでなく、その程度も明らかでない。尤も昭電の発電計画の工事実施によつて原告高山を除くその余の原告等が従前よりも水の使用に多少とも窮屈を感ずるであろうことは推察するに難くないけれども、公水の利用は、一方に既得権者を保護すると共に、他方には社会経済の発達のために成るべく有利にこれを利用せしめるように努めることが公水管理者の責務であるといわねばならぬ。本件発電計画によつて、自家用とはいえ、青木発電所において最大九千二百キロワツト時、常時二千三百五十キロワツト時の電力が得られ、且つ常盤、広津両発電所の出力を増加することができるのであるから、同原告等の側においても若干の不便は公益上の見地からこれを忍ばなければならない。

第三、和解契約に違反する違法について

原告等主張のような経過によりその主張のような和解契約が成立したことは当事者間に争がない。原告等は右契約は契約当事者たる原告高山ほか若干名の者のみならず高瀬川沿岸住民全部に効力が及ぶと主張するが、成立に争ない甲第五号証、証人山本威男、同内山寿次、同穂積健茂の各証言及び原告本人工藤邦夫、同高山潔(第一、二回)各本人尋問の結果を総合すれば右契約は契約当事者即ち前記行政訴訟の原告等及び参加人等と被告(本件原告等中原告高山のみが右訴訟の当事者となつたものでその他の原告等四名は右訴訟の原告でもなく参加人でもないことは当事者間に争がない)との間にのみ効力を有するものと認むべく、その他の公水使用権者のためにする契約とは認められない。また原告等は右契約によれば高瀬川農具川流水使用については相互協議の上終始友情をもつて善処する旨が確約せられているにもかゝわらず、被告は右契約当事者たる原告高山に対して何ら協議をせずに本件行政処分をなすの違法を犯したと主張する。しかしながら当事者間に争がない右契約成立までの経過及び前記甲第五号証、証人穂積健茂の証言を総合すれば右和解は広津発電所導水路流水をまず高瀬川左岸用水路を通じ北安曇郡池田町大字会染地区の潅漑、飲料、防火その他の用途に使用し残余があるときはじめて昭電に発電用水として使用せしめ、もし将来被告が右導水路に関し右地区用水に影響のあるような措置をとるときは右契約当事者と協議すべき旨を定めたものであると認められる。しかるに本件行政処分は前述のとおり高瀬川左岸用水路への右導水路からの分水量に何ら影響を及ぼさないから、被告は本件行政処分をなすに当り原告高山と協議する義務はなく、右協議をしないことは何等違法ではない。又憲法第二十九条にも違反しない。

第四、飲用水を混濁させた違法について

検証の結果によれば、大ゴ沢取水口附近の流水は極めて清澄である。越荒沢堰、猫鼻堰の各取水口附近の流水も清澄である。青木発電所附近の青木湖畔には十数戸から成る青木部落があり、部落附近の湖岸は塵芥捨場である。青木湖導水路取水口はこれより約五百米北方の湖岸にあり、その附近には人家、田畑等全くない。右部落などの存在も一因をなすものと思われるが、青木湖導水路の流水を森堰北用水路(青木湖導水路上方)の流水と比較すると清澄度は後者がやや高いことを認め得る。成立に争ない乙第十六号証の一ないし五によれば、原告福島、同松坂、同工藤同渋田見が飲用水として引水している野口東堰中青木湖導水路上方で採取した流水(これには青木湖放水は含まれていない。)も同堰の青木湖導水路下方で採取した流水(これには青木湖放水が含まれる。)も、水質試験の結果は、いずれも細菌数多く、大腸菌陽性で塩素滅菌しなければ飲用に適しないことを認め得るから、両者の間に優劣がなく、若しありとしても極めて軽微であるから、前記第二、(九)において述べたと同じ理由から同原告等において忍容しなければならないところである。甲第十一、十二号証、証人西沢正勝、同大和重一(第一回)、同遠山林平の各証言原告本人工藤邦夫、同高山潔(第一、二回)の各本人尋問の結果によつても未だ右判断を左右するに足りない。

第五、差別待遇及び正当補償をしない違法について

本件行政処分は前述のとおり何等原告等の公水使用権を侵害しないから、原告等から右権利を奪つてこれを昭電に与えるという差別待遇をなすの違法はなく又右権利を収用しながらこれが補償をしない違法はない。従つて憲法第十四条第二十九条に反しない。

第六、求意見、通知、公示を欠くの違法について

被告が本件行政処分をなすに当つて事前に既得公水使用権者の意見をきゝ又は行政処分をしたことをこれらの者に通知し若くは公示することを要する旨の規定は前記本件行政処分の根拠法令又はその附属法令に存在しないから、かゝる措置を欠くからといつて本件行政処分が違法であるとはなし得ない。なお被告は公水管理者として行政庁の資格において本件行政処分をなす以上、これが原告等の既得公水使用権を侵害する場合ならば格別、然らざるかぎり原告等の同意を要するいわれはない。

原告等は行政事件訴訟特例法第五条に出訴期間の定めがある以上、行政処分によつて既得水利権者の水利権が侵害されながらこの者が行政処分の当事者でないためこれを知らずして右出訴期間を徒過し権利の保護を得られなくなるおそれがあることを理由に、本件行政処分において既得水利権者への行政処分の通知が少くとも公示を必要とすると主張する。これは一応傾聴に値する見解であるが、同法によれば正当事由によつて右出訴期間内に右行政処分の取消訴訟を提起できなかつた場合には期間後といえども出訴できるから、所論のような不都合は多くこの規定で救済される故、敢て法の明文がないのに通知公示を要すると解する必要はない。従つて本件行政処分には原告等主張のような違法はない。

第七、職権濫用の違法について

被告が本件行政処分をなすに当りその職権を濫用したとの証拠はないから原告等の憲法第十二条違反の主張は採用しない。

第八、結論

以上説示の通り本件行政処分に原告等主張のような違法はなく、違憲の主張はすべて前提を欠き、原告等の本訴請求は理由がないからこれを棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十四条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 奥田嘉治 佐藤恒雄 沖野威)

別紙一(第一次行政処分)

長野県指令二六河第五九三・五九四号

昭和電工株式会社

昭和二十六年八月二十八日附申請の犀川支高瀬川支鹿島川支小冷沢、大冷沢、大川沢及び大ゴ沢の発電水利使用(青木発電所)並びに高瀬川支農具川(青木湖)の水の使用及び工作物設置を許可する。但し本県発電水利使用規則、河川取締規則並びに土木取締条例に拠るの外別紙命令書を遵守しなければならない。

昭和二十七年四月二十二日

長野県知事 林虎雄

命令書

昭和電工株式会社

今般右の者に対し犀川支高瀬川支鹿島川支小冷沢、大冷沢、大川沢及び大ゴ沢(青木発電所)並びに高瀬川支農具川(青木湖)の水の使用及び水路開鑿並びにその附属物の施設を許可するにつき本命令書を交付する。

第一条 水の使用の目的は自家用のため発電の用に供するものとする。

第二条 取水量及び使用水量並びに水位は左の通りとする。但し潅漑、飲用その他用水及び魚族の棲息遡上に支障のないようにしなければならない。

一、取水量は一秒時間左記以内とする。

小冷沢 〇、八〇立方米

大冷沢 一、四〇立方米

大川沢 三、一〇立方米

大ゴ沢 〇、七〇立方米

計   六、〇〇立方米

二、青木発電所の使用水量は一秒時間三、〇〇〇立方米以内とし内常時使用水量は一秒時間一、〇〇立方米とする。

三、青木湖

(一) 取水量は一秒時間五、五立方米以内とする。但し潅漑期(自五月二十一日至九月十日)においては分水口(本水路と各用水路との交叉箇所)より四、五六立方米を限度とし関係潅漑用水に必要な水量を又非潅漑期においては〇、七四立方米を放流しなければならない。

(二) 青木湖の水位は最高八二一、〇六米(零米)とし最低水位は標高八〇一、〇六米(零米以下二〇米)としその範囲を超ゆることはできない。

第三条 取水口及び注水口並びに放水口の位置は左の通りとする。

取水口

(イ) 鹿島川筋

小冷沢 長野県北安曇郡平村字鹿島入国有林(青木発電所取水口を含む)

大冷沢 同 県同  郡同村字同     (同          )

大川沢 同 県同  郡同村字同     (同          )

大ゴ沢 同 県同  郡同村字同     (同          )

(ロ) 青木湖

同 県同  郡同村字青木

注水口

同 県同  郡同村字青木

放水口

(イ) 青木発電所

長野県北安曇郡平村字青木

(ロ) 青木湖

高瀬川第一発電所放水口に注入し常盤、広津両発電所を通じ長野県北安曇郡広津村大字梶本字ヤーゴ一八、六九八番地から犀川本流に放水する。

第四条 許可年限は昭和四十一年三月三十一日までとする。

第五条 省略

第六条 工事実施の認可を受けたるときはその翌日より起算し三ケ月以内に工事に着手し着手の日より二ケ年内に竣功しなければならない。

第七条 長野県知事がこの事業により治水並びに交通上障害を来し又はその虞があると認めたときは許可を受けた者に命じてその障害を除去せしめ又はこれを予防するため必要な設備をなさしめることがある。

第八条 本事業のため潅漑その他の水利並びに漁業に支障を来し又はその虞あるときは許可を受けに者は関係当事者と協議し温水、飲用、水施設、揚水及び分水設備並びに水路改築、漁族の増蕃殖等に必要な施設、その他適当の方法を講じなければならない。

前項により工事をしようとするときは関係当事者と協議の顛末を具して長野県知事の許可を受けなければならない。

第九条 現在長野県が使用している農具川(青木湖、木崎湖)の水利に支障を与えてはならない。

前項に支障を来し若しくはその虞れがあるときは許可を受けたものは関係当事者と協議し適当な措置を講じなければならない。

第十条 青木湖よりの取水口の水門及び発電用水と農業用水等との分水に伴う水門の運営管理については関係当事者と協議の上別途承認を受けなければならない。

第十一条 公益のため必要な工事又は長野県若しくは他人において長野県知事の許可に基いて施行する水利その他工事に因り本則に依り許可を受けたる事業に障害を来し若しくは変更を生ぜしむることあるも許可を受けた者はこれを拒むことができない。

第十二条 長野県知事は許可を受けた者が法律命令又は本命書若しくは本命令書に基いてなした処分に違背したときは本許可の全部若しくは一部を取消し又は工事の変更若しくは中止を命ずることがある。

昭和二十七年四月二十二日

長野県知事 林虎雄

別紙二(第二次行政処分)

長野県指令二七河第五二八号

昭和電工株式会社

昭和二十七年五月十五日附申請の犀川支高瀬川支鹿島川支小冷沢、大冷沢、大川沢及び大ゴ沢の発電水利使用(青木発電所)並びに高瀬川支農具川(青木湖)の水の使用計画変更を許可し同工事実施について魚道を除き認可する。但し大正十年五月三十一日県令第五十一号発電水利使用規則に拠るの外さきに交付した認可命令書を別紙の通り更改する。

昭和二十七年十月八日

長野県知事 林虎雄

命令書(傍線は当裁判所が施したものであつて、第一次行政処分附属命令書と比較して主要なる相違点を示す。)

昭和電工株式会社

今般右の者に対し犀川支高瀬川支小冷沢、大冷沢、大川沢及び大ゴ沢(青木発電所)並びに高瀬川支農具川(青木湖)の水の使用計画変更を許可し同工事実施を認可するにつき本命令書を交付する。

第一条 水の使用の目的は自家用のため発電の用に供するものとする。

第二条 取水量及び使用水量並びに水位は左の通りとする。但し潅漑飲用その他用水及び魚族の棲息遡上に支障のないようにしなければならない。

一、取水量は一秒時間左記以内とする。

小冷沢 〇、八〇立方米

大冷沢 一、四〇立方米

大川沢 三、一〇立方米

大ゴ沢 〇、七〇立方米

計   六、〇〇立方米

二、青木発電所の使用水量は一秒間四、〇〇立方米以内とし内常時使用水量は一秒時間一、〇〇立方米とする。

三、青木湖

(一) 取水量は一秒時間五、五立方米以内とする。但し潅漑期(標準自五月二十一日至九月十日)においては分水口(本水路との交叉箇所)より四、五六立方米を限度とし関係潅漑用水に必要な水量を又非潅漑期においては〇、七四立方米を放流しなければならない。

(二) 青木湖の水位は最高八二一、〇六米(零米)とし最低水位は標高八〇一、〇六米(零米以下二〇米)としその範囲を超ゆることは出来ない。

第三条 取水口及び注水口並びに放水口の位置は左の通りとする。

取水口

(イ) 鹿島川筋

小冷沢 長野県北安曇郡平村字鹿島山国有林第一四班(青木発電所取水口を含む)

大冷沢 同 県同  郡同村字 同   同第一一班( 同         )

大川沢 同 県同  郡同村字 同   同 第七班( 同         )

大ゴ沢 同 県同  郡同村字 同   同 第四班( 同         )

(ロ) 青木湖

同 県同  郡同村青木字青崎二一六〇三のロ号

注水口

同 県同  郡同村同     二〇九五九番地

同 県同  郡同村字道下    二一〇〇番地

放水口

(イ) 青木発電所

長野県北安曇郡平村青木字道下  二一〇〇番地

(ロ) 青木湖

高瀬川第一発電所放水口に注入し常盤、広津両発電所を通じ長野県北安曇郡広津村大字梶本字ヤーゴ一八六九八番地から犀川本流に放水する。

第四条 許可年限は昭和四十一年三月三十一日までとする。

第五条 許可を受けた者が工事実施の変更をしようとするときは工事実施認可申請の例に準じて長野県知事の認可を受けなければならない。

第六条 工事は本指令の日の翌日より起算し三ケ月以内に着手し着手の日の翌日より二ケ年内に竣功しなければならない。

第七条 長野県知事がこの事業により治水並びに公益上障害を来し又はその虞があると認めたときは許可を受けた者に命じてその障害を除去せしめ又これを予防するために必要な設備をなさしめることがある。

第八条 本事業のため潅漑その他の水利並びに漁業に支障を来し又はその虞があるときは許可を受けた者は関係当事者と協議し温水、飲用水施設、揚水及び分水設備並びに水路改築、漁族の増蕃殖に必要な施設、その他適当の方法を講じなければならない。

第九条 現在長野県が使用している農具川(青木湖、木崎湖)の水利に支障を与えてはならない。

前項に支障を来し若しくはその虞があるときは許可を受けたものは関係当事者と協議し適当な措置を講じなければならない。

第十条 青木湖より取水口の水門及び発電用水と農業用水等との分水に伴う水門の運営管理並びに青木湖の貯溜及び放流の基準については関係当事者と協議の上別途承認を受けなければならない。

第十一条 公益のため必要な工事又は長野県若しくは他人において本事業に障害を来し若しくは変更を生ぜしめることあるも許可を受けた者はこれを拒むことができない。

第十二条 長野県知事は許可を受けた者が法律命令又は本命令書若しくは本命令書に基いてなした処分に違背したときは本許可の全部若しくは一部を取消し又は工事の変更若しくは中止を命ずることがある

昭和二十七年十月八日

長野県知事 林虎雄

別紙三(第三次行政処分)

長野県指令二九河第六八二号

昭和電工株式会社

昭和二十九年四月二十六日附で申請の犀川支高瀬川支鹿島川支小冷沢、大冷沢、大川沢及び大ゴ沢の発電水利使用(青木発電所)並びに高瀬川支農具川(青木湖)の水の使用計画変更を許可し同工事実施を認可する。但し大正十年五月三十一日県令第五十一号発電水利使用規則に拠るの外さきに交付した命令書を別紙のとおり更改する。

昭和二十九年五月二十日

長野県知事 林虎雄

命令書(傍線は当裁判所が施したものであつて、第二次行政処分附属命令書と比較して主要なる相違点を示す。)

昭和電工株式会社

今般右の者に対し犀川支高瀬川支小冷沢、大冷沢、大川沢及大ゴ沢(青木発電所)並びに高瀬川支農具川(青木湖)の水の使用計画変更を許可し同工事実施を認可するにつき本命令書を交付する。

第一条 水の使用の目的は自家用のため発電の用に供するものとする。

第二条 取水量及び使用水量並びに水位は左の通りとする。但し潅漑飲用その他用水及び魚族の棲息遡上に必要な水量は之を放流しなければならない。

一、取水量は一秒時間左記以内とする。

小冷沢 〇、八〇立方米

大冷沢 一、四〇立方米

大川沢 三、一〇立方米

大ゴ沢 〇、七〇立方米

計   六、〇〇立方米

二、青木発電所の使用水量は一秒時間四、〇〇立方米以内とし内常時使用水量は一秒時間一、〇〇立方米とする。

三、青木湖

(一) 取水量は一秒時間五、五立方米以内とする。但し潅漑期(標準自五月二十一日至九月十日)においては分水口(本水路との交叉箇所)より四、七六立方米を限度として関係潅漑用水に必要な水量を又非潅漑期においては〇、七七六立方米を放流しなければならない。

(二) 青木湖の水位は最高八二一、〇六条(零米)とし最低水位は標高八〇一、〇六米(零米以下二〇米)としその範囲を超ゆることは出来ない。

第三条 取水口及び注水口並びに放水口の位置は左のとおりとする。

取水口

(イ) 鹿島川筋

小冷沢 長野県北安曇郡平村字鹿島山国有林第一四班(青木発電所取水口を含む)

大冷沢 同 県同  郡同村字同     第一一班( 同         )

大川沢 同 県同  郡同村字同      第七班( 同         )

大ゴ沢 同 県同  郡同村字同      第四班( 同         )

(ロ) 青木湖

長野県北安曇郡平村青木字青崎二一六〇三のロ号

注水口

長野県北安曇郡平村青木   二〇九五九番地

同 県同  郡同村同字道下 二一〇〇七番地

放水口

(イ) 青木発電所

長野県北安曇郡平村青木字道下二一〇〇七番地

(ロ) 青木湖

高瀬川第一発電所放水口に注入し常盤、広津両発電所を通じ長野県北安曇郡広津村大字梶本字ヤーゴ一八六九八番地から犀川本流に放水する。

第四条 許可年限は昭和四十一年三月三十一日までとする。

第五条 許可を受けた者が工事実施の変更をしようとするときは工事実施認可申請の例に準じて長野県知事の認可を受けなければならない。

第六条 工事は昭和二十九年十月八日まで竣功しなければならない。

第七条 長野県知事がこの事業により治水並びに公益上障害を来し又はその虞があるときは許可を受けた者に命じてその障害を除去せしめ又これを予防するために必要な設備をなさしめることがある。

第八条 本事業のため潅漑その他水利並びに漁業に支障を来し又はその虞があるときは許可を受けたものは関係当事者と協議し温水、飲用水施設、揚水及び分水設備並びに水路改築、魚族の増蕃殖に必要な施設、その他適当の方法を講じなければならない。

第九条 現在長野県が使用して居る農具川(青木湖、木崎湖)の水利に支障を与えてはならない。

前項に支障を来し若しくはその虞れがあるときは許可を受けたものは関係者と協議し適当な措置を講じなければならない。

第十条 青木湖より取水口の水門及び発電用水と農業用水等との分水に伴う水門の運営管理並びに青木湖の貯溜及び放流の基準については関係当事者と協議の上別途承認を受けなければならない。

第十一条 公益のため必要な工事に障害を来し若しくは変更を生ぜしめることあるも許可を受けた者はこれを拒むことができない。

第十二条 長野県知事は許可を受けた者が法律命令又は本命令書若しくは本命令書に基いてなした処分に違背したときは本許可の全部若しくは一部を取消し又は工事の変更若しくは中止を命ずることがある。

昭和二十九年五月二十日

長野県知事 林虎雄

別紙四(各用水ごとの分水量表変更前)

挿秧期分水量

(五月二一日

六月一〇日)

常時灌漑期分水量

(六月一一日

九月一〇日)

非灌漑期分水量

支配面積

既田

開田面積

森堰

(単位秒立方米)

〇、二八二

(単位同上)

〇、一八九

(単位同上)

〇、〇三八

(単位 反)

二八一、五〇〇

(単位同上)

一八一、五〇〇

一〇〇、〇〇〇

木崎堰

〇、二六一

〇、一七五

〇、〇三七

二六〇、六〇〇

一六九、六〇〇

九一、〇〇〇

寺堰

〇、一〇九

〇、〇七一

〇、〇〇七

一〇九、〇〇〇

七九、〇〇〇

三〇、〇〇〇

北荒沢堰

〇、四四一

〇、三一二

〇、〇九四

四九〇、五〇〇

四〇〇、五〇〇

九〇、〇〇〇

中荒沢堰

〇、一八七

〇、一三五

〇、〇一四

一八四、七〇〇

六四、七〇〇

一二〇、〇〇〇

南荒沢堰

〇、四五三

〇、三三〇

〇、〇三三

五二八、六〇〇

四五七、六〇〇

七〇、〇〇〇

大町新堰

〇、五三〇

〇、三七五

〇、一一三

六一五、四〇〇

五八六、〇〇〇

二九、四〇〇

飯綱宮堰

〇、二五七

〇、一六〇

〇、〇一六

二五七、〇〇〇

二二六、五〇〇

三〇、五〇〇

御所川

〇、三二七

〇、二一一

〇、〇六三

三五一、七〇〇

三五一、一〇〇

六〇〇

野口東堰

〇、三〇一

〇、二一六

〇、〇四三

三四九、五〇〇

三一九、五〇〇

三〇、〇〇〇

野口西堰

〇、二八四

〇、二一二

〇、〇四三

三二九、八〇〇

二五九、八〇〇

七〇、〇〇〇

久保堰

〇、〇八七

〇、〇五二

〇、〇〇五

八六、三〇〇

八六、三〇〇

大蔵宮堰

一、〇四二

〇、七八三

〇、二三五

一、三〇一、八〇〇

一、二九一、八〇〇

一〇、〇〇〇

四、五六一

三、二二一

〇、七四一

五、一四六、四〇〇

四、四七三、九〇〇

六七二、五〇〇

支配面積を二二三、四二三と表示してあれば二十二町三反四畝二十三歩の意味である。以下別紙六、七、八、十の面積も同様に表示する。

別紙五(青木湖導水路取水量及び分水量表変更前)

(単位 秒立方米)

月別

一〇

一一

一二

一~二〇

二一~三一

一~一〇

一一~三〇

一~一〇

一一~三〇

青木湖放水量

四・五四四

五・四四六

三・二二六

一・一八九

〇・四三八

五・五〇〇

四・五〇〇

二・六九九

三・二九三

四・三九五

四・五五七

二・四九四

〇・六三六

一・三八八

二・七六三

鹿島川残水取水量

〇・〇一五

〇・〇二〇

〇・八七八

二・八三一

〇・九〇七

〇・五〇〇

〇・七九七

〇・四四二

〇・四五六

〇・二八五

〇・一〇六

〇・一三二

〇・〇〇八

籠川取水量

〇・七二七

〇・七二七

〇・六一二

〇・六一二

〇・六一二

〇・六一二

四・五五九

五・四四六

三・二四六

二・〇六七

三・二六九

七・一三四

五・七八七

四・一〇八

四・三四七

五・四六三

五・一六九

二・七七九

〇・七四一

一・五二〇

二・七七一

木崎湖分水量

一・一八九

一・五〇〇

一・二〇〇

〇・七〇〇

〇・七〇〇

〇・三一四

用水路分水量

〇・七四一

〇・七四一

〇・七四一

〇・七四一

〇・七四一

四・五六一

四・五六一

三・二二一

三・二二一

三・二二一

三・二二一

〇・七四一

〇・七四一

〇・七四一

〇・七四一

〇・七四一

〇・七四一

〇・七四一

一・九三〇

〇・七四一

六・〇六一

五・七六一

三・九二一

三・九二一

三・五三五

三・二二一

〇・七四一

〇・七四一

〇・七四一

〇・七四一

別紙六(原告高山を除く原告等の耕作反別及び必要水量表)

所有者

面積

使用用水路

必要水量(秒立方米)

挿秧期

常時灌漑期

福島

二筆二、四二〇

野口東堰

〇、〇〇二〇八一二

〇、〇〇一四五二

二筆一、九一四

飯綱宮堰

〇、〇〇一八四六

〇、〇〇一〇七六

六筆三、四〇九

大町新堰

〇、〇〇二七六一一四

〇、〇〇一九一九四

松坂

一筆、六一七

野口東堰

〇、〇〇〇五三〇六二

〇、〇〇〇三七〇二

七筆六、二〇四

飯綱宮堰

〇、〇〇六二四

〇、〇〇三七二二四

工藤

十三筆八、八一二

野口東堰

〇、〇〇七五八八三二

〇、〇〇五二八七二

渋田見

八筆七、四〇三

野口東堰

〇、〇〇六四二六七八

〇、〇〇四四八三八

二筆二、三〇二

野口西堰

〇、〇〇一九〇九五二

〇、〇〇一三九二

一筆三、三一九

飯綱宮堰

〇、〇〇三三一九

〇、〇〇一九九一四

別紙七(原告高山を除く原告等関係の四堰の必要水量変更前)

堰名

支配面積及既田開田の別

挿秧期

常時灌漑期

非灌漑期

代掻用水

減水深

期間

単位用水量

必要水量

減水深

単位用水

必要水量

上記量の%

必要水量

大町新堰

六一五、四〇〇

一五〇

四五

一〇

(町当)

〇・〇〇八六

〇・五三〇

(粍)

量(町当)

〇・三七五

三〇

〇・一一三

五八六、〇〇〇

二九、四〇〇

四三

五八

〇・〇〇六

〇・〇〇八

〇・三五二

〇・〇二三

飯綱宮堰

二五七、〇〇〇

一五〇

四五

〇・〇一〇

〇・二五七

〇・一六〇

一〇

〇・〇一六

二二六、五〇〇

三〇、五〇〇

四三

五八

〇・〇〇六

〇・〇〇八

〇・一三六

〇・〇二四

野口東堰

三四九、五〇〇

一五〇

四五

一〇

〇・〇〇八六

〇・三〇一

〇・二一六

二〇

〇・〇四三

三一九、五〇〇

三〇、〇〇〇

四三

五八

〇・〇〇六

〇・〇〇八

〇・一九二

〇・〇二四

野口西堰

三二九、八〇〇

一五〇

四五

一〇

〇・〇〇八六

〇・二八四

〇・二一二

二〇

〇・〇四三

二五九、八〇〇

七〇、〇〇〇

四三

五八

〇・〇〇六

〇・〇〇八

〇・一五六

〇・〇五六

註 単位用水量の単位は立方米/秒/町、必要水量の単位は立方米/秒である。

各用水路の導水損失は二十%である。

各必要水量は、潅漑用水のみならず飲料その他雑用水を十分見込んだ量である。

別紙八(各用水堰ごとの分水量表変更後)

堰名

挿秧期分水量

(五月二一日

六月一〇日)

(単位秒立方米)

常時灌漑期分水量

(六月一一日

九月一〇日)

(単位同上)

非灌漑期分水量

(単位同上)

支配面積

(単位 反)

既田

開田面積

(単位同上)

森堰

〇、二七六

〇、二〇一

〇、〇四〇

二九六、一二九

一八一、四二九

一一四、七〇〇

木崎堰

〇、三〇二

〇、二二六

〇、〇四五

三二四、五二二

一六九、六〇二

一五四、九二〇

寺堰

〇、一四二

〇、〇九七

〇、〇一〇

一四一、四一四

七八、九一四

六二、五〇〇

北荒沢堰

〇、三九五

〇、二九六

〇、〇八九

四七〇、五〇四

四〇〇、五〇五

七〇、〇〇〇

西原堰

〇、〇九四

〇、〇六九

〇、〇〇七

九〇、〇〇〇

(開)九〇、〇〇〇

中荒沢堰

〇、一七一

〇、一二四

〇、〇一三

一七〇、七〇〇

六四、七〇〇

一〇六、〇〇〇

法蔵寺堰

〇、一〇六

〇、〇七八

〇、〇〇八

一〇二、〇〇〇

(開)一〇二、〇〇〇

南荒沢堰

〇、四三一

〇、三一七

〇、〇三二

五一二、九一一

四六九、九一一

四三、〇〇〇

大町新堰

〇、六二八

〇、四七九

〇、一四四

七八五、四二九

七四九、四一三

三六、〇一六

飯綱宮堰

〇、二六六

〇、一七四

〇、〇一八

二八〇、三二八

二四九、九〇六

三〇、四二二

御所川

〇、二七五

〇、一八七

〇、〇五六

三一二、六一二

三一二、〇〇一

六一一

野口東堰

〇、二九九

〇、二〇八

〇、〇四二

三三九、四二七

三一九、四二七

二〇、〇〇〇

野口西堰

〇、二八二

〇、二〇四

〇、〇四一

三一九、八〇二

二五九、八〇二

六〇、〇〇〇

久保堰

〇、一〇一

〇、〇六八

〇、〇〇七

一〇六、三〇〇

八六、三〇〇

二〇、〇〇〇

大蔵宮堰

〇、九九二

〇、七四五

〇、二二四

一、二三九、四〇七

一、二三二、四〇七

七、〇〇〇

四、七六

三、四七三

〇、七七六

五、四九一、九〇六

四、五七四、五二七

九一七、三〇九

別紙九(青木湖導水路取水量及び分水量表変更後)

期別

月別

非灌漑期

挿秧期

常時灌漑期

非灌漑期

一〇

一一

一二

一~二〇

二一~三一

一~一〇

一一~三〇

一~一〇

一一~三〇

青木湖放水量

四・五五三

五・五〇〇

三・二六一

一・一八九

〇・四三八

五・五〇〇

四・五〇〇

二・六九九

三・二九三

四・五〇二

四・六八三

二・四九四

〇・六二八

一・四〇一

二・七九〇

鹿島川残水取水量

〇・〇五三

〇・〇〇六

〇・〇三九

〇・九二一

二・八七四

一・一五五

〇・八〇八

〇・九九三

〇・六四〇

〇・六五四

〇・一〇九

〇・三二八

〇・一四八

〇・一一七

〇・〇三三

籠川水量

〇・七六七

〇・七六七

〇・六四二

〇・六四二

〇・六四二

〇・六四二

四・六〇六

五・五〇六

三・三〇〇

二・一一〇

三・三二一

七・四二二

六・〇七五

四・三三四

四・五七五

五・七九八

五・四三四

二・八二二

〇・七七六

一・五一八

二・八二三

木崎湖分水量

一・一八九

〇・四三八

一・五〇〇

一・三〇〇

〇・八五〇

一・一〇〇

〇・六〇〇

〇・一〇〇

〇・一〇〇

用水路分水量

〇・七七六

〇・七七六

〇・七七六

〇・七七六

〇・七七六

四・七六〇

四・七六〇

三・四七三

三・四七三

三・四七三

三・四七三

〇・七七六

〇・七七六

〇・七七六

〇・七七六

〇・七七六

〇・七七六

〇・七七六

一・九六五

一・二一四

六・二六〇

六・〇六〇

四・三二三

四・五七三

四・〇七三

三・五七三

〇・八七六

〇・七七六

〇・七七六

〇・七七六

別紙十(原告高山を除く原告等関係の四堰の必要水量表変更後)

堰名

支配面積及既田開田の別

挿秧期

常時灌漑期

非灌漑期

代掻用水

減水深

期間

単位用水量

必要水量

減水深

単位用水

必要水量

上記量%

必要水量

大町新堰

七八五、四二九

一五〇

四五

一〇

〇・〇〇八〇

〇・六二八

〇・四七九

三〇

〇・一四四

七四九、四一三

三六、〇一六

四三

五八

〇・〇〇六

〇・〇〇八

〇・四五〇

〇・〇二九

飯綱宮堰

二八〇、三二八

一五〇

四五

〇・〇〇九五

〇・二六六

〇・一七四

一〇

〇・〇一八

二四九、九〇六

三〇、四二二

四三

五八

〇・〇〇六

〇・〇〇八

〇・一五〇

〇・〇二四

野口東堰

三三九、四二七

一五〇

四五

〇・〇〇八八

〇・二九九

〇・二〇八

二〇

〇・〇四二

三一九、四二七

二〇、〇〇〇

四三

五八

〇・〇〇六

〇・〇〇八

〇・一九二

〇・〇一六

野口西堰

三一九、八〇二

一五〇

四五

〇・〇〇八八

〇・二八二

〇・二〇四

二〇

〇・〇四一

二五九、八〇二

六〇、〇〇〇

四三

五八

〇・〇〇六

〇・〇〇八

〇・一五六

〇・〇四八

注 単位用水量の単位は立方米/秒/町/、必要水量の単位は、立方米秒である。

各用水路の導水損失は二十%である。

各必要水量は潅漑用水のみならず、飲料その他雑用水を十分見込んだ量である。

別紙十一

期別

非灌漑期

挿秧期

常時灌漑期

非灌漑期

月別

一〇

一一

一二

一~二〇

二一~三一

一~一〇

一一~三〇

一~一〇

一一~三〇

A測水所流量

一・四一二

一・一二九

一・三一四

四・九九四

九・七〇一

七・〇九〇

五・四二二

五・一一五

二・七七六

一・八六六

一・七一六

一・二八三

一〇・五二一

八・二一〇

七・〇八三

七・〇九二

二・八八〇

二・七二三

B四溪流取水口合計流量

〇・九八九

〇・七九〇

〇・九二〇

三・四九五

六・七九〇

四・九六三

三・七九六

三・五八〇

一・九四三

一・三〇六

一・二〇一

〇・八九八

七・三六四

五・七四七

四・九五九

四・九六三

二・〇一六

一・九〇七

C青木湖取水量

〇・七八九

〇・七七三

〇・九一一

三・三三〇

五・六五六

四・九六三

三・七九六

三・三八〇

一・九四三

一・三〇六

一・二〇一

〇・八八八

五・六九二

五・五八九

四・九五九

四・九六五

二・〇一六

一・九〇七

D鹿島川下流流量

〇・四二四

〇・三五六

〇・四〇三

一・六六四

四・〇四五

二・一二七

一・六二六

一・七三五

〇・八三三

〇・五六〇

〇・五一五

〇・三九五

四・八二九

二・六二一

二・一二四

二・一二七

〇・八六四

〇・八一六

E青木湖導水路上方地区必要水量

〇・三四八

〇・三四八

〇・三四八

〇・三四八

〇・五六九

〇・七九六

〇・七〇八

〇・七〇八

〇・四六八

〇・三四八

〇・三四八

〇・三四八

〇・三四八

〇・九七一

〇・九七一

〇・七〇八

〇・七〇八

〇・三四八

F鹿島川残水量

〇・〇七六

〇・〇〇八

〇・〇五五

一・三一六

三・四七六

一・三三一

〇・九一八

〇・九三四

〇・三六五

〇・二一二

〇・一六七

〇・〇四七

四・四八一

一・六五一

一・一五四

一・四一九

〇・一五六

〇・四六九

G同上有効水量

〇・〇五三

〇・〇〇六

〇・〇三九

〇・九二一

二・四三三

〇・九三一

〇・六四二

〇・六五四

〇・二五五

〇・一四八

〇・一一七

〇・〇三三

三・一三六

一・一五五

〇・八〇八

〇・九九三

〇・一〇九

〇・三二八

本表は毎月の平均値であつて単位は立方米毎秒である。本表の数字は次の公式により算出してある。

A×0.7(流域比)=B A-C=D D-E≧F(用水路の容量による制限があるため) F×0.7=G 但し小数第四位は切捨て又は切上げたものである。

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